早速300kmほどのツーリングに出かけて『UNIT GARAGE チタンR18サイレンサー』を試してきた。
否、味わってきた。
言ってもサイレンサーを交換しただけなので、基本的にエンジン特性はノーマルを踏襲。
これまでのAkrapovičから、サイレンサー部分が1/3程度まで短くなったのだから、いわゆる排気の「ヌケ」は良くなっているはずなのですが、とはいえR18は高回転まで回して馬力を稼ぐタイプのエンジンではまったくない。むしろ「タメ」が減ることで、R18の特徴である豊かなトルク特性を持ちながらも、決してしゃくり上げたりしない滑らかな走行性能に影響が出てしまうことを危惧していた。
ただそれらは単なる取り越し苦労でありました。操縦性、レスポンス、トルク感を含むエンジン特性に関しては、純正のAkrapovičと比べて大きな違いは感じられなかった。
ただ、後述するサウンド特性の変化に伴い、パルス感はかなり高まった。
それはネジ類が緩みそうなエッジのある周波数ではなく、運転中に疲れさせられることのない角の取れたまろやかなもので、アクセル操作に対してとてもボクサーツインらしい鼓動感となってレスポンスしてくれるぶん、トルクに厚みが増したようにも感じられている。
ビッグボアツインらしい歯切れの良い骨太なサウンドにウットリ。
マフラー交換は見た目を変える一番と言っていいアイテムですが、見た目と同じくらい気になるのはやはりサウンド。
UNIT GARAGEのホームページにはサウンドを聴かせるための動画もアップされており、もちろん私も何度も聴きましたが、音質の方向性はつかめても実際に聴く音圧とは異なるためあまり参考にはできない。
音質に大きく関わるエキゾースト・フラッパー・バルブも残されることに加えて、キャタライザーがあると、どうしても湿ったような音質になってしまうことも想像される。正直、サウンドの質に関してはあまり期待しないようにしていたのですが、ありがたいことに、ツインらしい弾けるようなサウンドを届けてくれた。
腹に響くようなものでは決してなく、1,800ccのOHVの放つ重厚でいてキレのよい爆発音が心地よい。
純正アクセサリーのAkrapovičは、4速に入る頃には排気音はすっかり聞こえなくなってしまいますが、こちらは4速80km/hでもきっちりサウンドを楽しめるので、長い時間マフラーサウンドを楽しむことができる。
同じUNIT GARAGEのフルエキの方はすべてチタンパイプになることと併せて、乾いた弾けるような音質になるものと思われる。なんて書いていると欲しくなってしまうのでこれ以上はやめておくが、スリップオンの音質もなかなかのものだと思う。
ちなみに、サイレンサーには取り外せるインナーバッフルが装備されているのですが、凶暴な音量になったら怖いので、小心者の私には外すことができない。今度人気のない場所でこっそり試してみようと思う。
ちなみに、この仕様だとトーゼンの如く車検には通らない。

そして、交換されたマフラーがエンジンに馴染むには少し時間がかかる。
「馴染む」というより、「同期する」と言った方が適切かもしれない。
R18のエキゾーストには排気ガス中の酸素濃度を測定し、エンジンの空燃比を調整するO2センサーが計4つ取り付けられている。
標高の高い空気の薄い場所や、湿度の高い場所など、千変万化する外気状況をセンシングしているということは、マフラー内の排気速度や排気効率の違いに測定値が影響を受ける。それらをCPUが補正するのに少しばかり時間がかかる。
交換後、だいたい100kmほどで馴染んできた。
交換してすぐはガスが濃く出ていたようでしたが、馴染んでくると湿り気が抑えられてきて、サウンドも角の取れたまろやかなものに変わってきた。
そこからはまさに絶好調。ビッグボアツインらしい爆発感とBMWのジェントルさが適度にバランスしたよい加減のサウンドに落ち着いてくれた。
この塩梅の良さを生み出すためには、BMWの特性、BMWを好むユーザーの性質をよく理解できていないと無理。交換するマフラー選びに際しては、そうしたアフターパーツメーカーの眼力を見極めることがとても大事。
長距離を走るとだんだんと空燃比が整ってくる。
あからさまに一滴のガソリンを無駄なくすべてパワーに変換している様が、ありありと伝わってくるようになるのはほとんどノーマルマフラー。
サイレンサーを換えただけなのだからそりゃそうだ。と思われるかもしれないが、そうならないこともあるのだからエンジン関係のパーツ交換は気が抜けない。ある程度純粋な性能域を外してしまう状況も覚悟しておりましたが、ノーマルの性能をきちんと踏襲していてくれた。
理想空燃比域に入るとエンジン周りからのノイズのような振動は一切無くなり、背中合わせに振り出される巨大なボアをもつピストンが完全バランスする。このときの滑空感と言ったらない。まさにこれこそが1,800ccOHVボクサーエンジンの放つ魅力の最高到達点。
そのかわり、その域に入ると排気音もノーマルレベルに整ってしまうのですが、数回信号待ちを繰り返せばまた空燃比がズレて元通りの排気音量と振動が戻ってくる。
マフラー周りを交換しても、BMWが目指す大切な部分を損なわないことが何より。
走行動画でチタンR18サイレンサーのサウンドをチェックしてみてください。
実際にはこの動画で聞こえる音量差以上に背中から強めの音圧が体内に伝わってくるぶん違いは大きい。
もちろんノイジーなバイブレーションも増えて、それも音圧となって加わるが、それもまた「いかにも内燃機関」と言える感触になってくれている。
というように、サウンドに関してはほとんど期待していなかったので、これは本当に拾い物でありました。
ただ、高性能を狙っていないオートバイにとって、マフラー交換の意義はサウンド変更にあると言っても過言ではないので、よくよく考えてみれば、これは当たり前のことではある。なので、「私の好きなサウンドの種類で良かった」という意味で聞いていただければありがたい。
R18はエンジンサウンドを堪能できる最後の現代ボクサーかもしれない。
私は並列4気筒、いわゆる“パラ4”に乗っている頃はエキゾーストノートに強めのこだわりを持っていて、何本もマフラーを交換して好みのサウンドを探していました。
1,200ccのボクサーツインはサウンドよりも、アクセルレスポンスと同調するトルク特性と、それに伴うまろやかでいてキレのあるエンジンバイブレーションを楽しむ乗り方に変わっていき、ボクサーエンジンに乗り換えてからはサウンド方面へのこだわりもなくこれまで過ごしてきた。
R1200Cでも、R1200GSでも、HP2 Enduroでも、サイレンサーは交換しておりましたが、いずれもBMW純正パーツであったこともあり、サウンドよりも言ったような中速域のトルク特性と高回転域のヌケの良さを両立させようとする性能重視のものだった。
それは、いかに1,200ccボクサーエンジンが感応性に優れるとはいえ、2気筒らしいトルク特製だけでなく、ある程度高速域でも伸びるようなエンジン特性が市場に求められていたからなのだろう。回転数が上がるとサウンドの粒も細かくなるためツインらしいサウンドは生み出しづらくなる。そうしたサウンド面までカバーする余裕のない1,200ccに対し、きっぱりと高回転域を捨てて、良好なサウンドに活かせる低〜中回転域に全フリできる1,800ccOHVボクサーツインこそ、2気筒エンジンらしいサウンドを堪能できる電子制御時代のボクサーエンジンだったのだと思い知った。
走行性能、エンジン特性を「感応性能」として活かせなければ、1,800ccOHVボクサーエンジンに存在意義などない。そんな当たり前のことに改めて気づくことができた。
つまりそれは、R18でエンジンサウンドを楽しまなければ、その魅力の半分も“回収”できていないことを意味する。
そして、それはあまりに紳士的にすぎるメーカー純正マフラーでは達成できない。
紳士的であることがメーカーの哲学でもあるBMWにとって、R18の存在は最大の自己矛盾なのかもしれない。
エンジンサウンドの楽しさを、私の人生におけるこのタイミングで改めて気づけたことの意義はあまりに大きい。
エキゾーストノートこそエンジン好きのライダーが一番に反応する部分であったはずなのに、BMWに出会ってからそちら方面への関心がすっかりなくなってしまっていた。
次世代の自動車が電動化一本槍だったところから、CO2からガソリンを生成する技術が確立されるなど、合成燃料などの代替燃料の可能性も見直されてきている昨今。内燃機関をもつオートバイの寿命も少しは延ばされたのかもしれないが、とはいえ内燃機関の鼓動を味わえる時間はそう多くは残されていないように思う。
そのことに今一度思いを馳せることは、今の私にとって、とても意義のあることだと気づくことができた。
もちろん騒音や排ガスを撒き散らすのは大人のすることでは決してない。
そうした嗜好性と社会性とのバランスの中で、排ガス浄化装置を装備するBMW Motorradが、私にとっての最適解だ。
その枠の中で、これからも最高と言えるエンジンフィーリングを楽しんでいこうと思う。

R18のカスタマイズは本当に楽しい。
エンジンを楽しむための器でしかないR18の中でも『Pure』はその名の通りにただの素材でしかない。
これまでは「速くするため」「軽くするため」「ハンドリングを良くするため」というパフォーマンスアップのためのカスタマイズを繰り返してきた私にとって、R18ほど“想像力”を刺激してくれる素材は他にない。
そうした私の理想に関して、これでひとまずのゴールを迎えられたような気もしている。
ただ、ここまでやると、今度はディテールが気になってくる。
ここからは気になる点を一つひとつ潰していくようなカスタマイズになると思う。
もちろん、施したカスタマイズを味わうためにも、より一層R18を走り倒さなければならない。
さて、新たなエンジンサウンドともに、どこに走りに行こうか。
半分仕事を引退した私と、R18の前に広がる道は、あまりに無限だ。
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