ルックバック

すごい作品です。傑作です。

私としては「言うことなし」な作品でしたが、誰にでもそう言える作品かと言えばそうでもないように思う。
なので、一応何点かについて言っておかないといけないわけですが、もし少しでも興味を持ったなら、観ておいてゼッタイに損はない作品です。
力強い画力と、滑らかでいて風情のある質感のアニメーションによって、もう冒頭からその世界観に引き込まれてしまうのですが、原作があの『チェンソーマン』の藤本タツキであることがにわかには信じられないくらい、才能と努力、そして自身の適材適所を模索する少女の姿が瑞々しく描かれている。

ただ、そんな清々しい青春日記的な世界観から、物語には一気に急ブレーキがかかる。
少女たちの平凡でいてキラキラした日常が、ひどく歪んだ精神によってあっけなく崩れ去っていく場面や、少々スピリチュアルともとれる展開もあったりして、それを「視点」と捉えるか、「奇跡」と捉えられるのかによって今作への感想は大きく変わると思う。
そこが「言うことなし」と、私が素直に言えない部分でもある。

私はその急に冷や水を浴びせかけられるような急ブレーキの掛け方が実に“チェンソーマン的”だと、むしろ改めて藤本タツキの放つ世界の原点に触れられたように思えた。

そして、冒頭の青春日記に関しても、創造を使命とする人間の悦びや、産みの苦しみを、小学生というオブラートに包みながらも逃げずにきっちり描いているところにも共感できた。
話は少々逸れるが、私にとって『ハチミツとクローバー』は、まさに青春あるある。
努力とか、汗とか、涙とか、生きがいとか、目標とか、そんな甘っちょろいモノを一瞬で吹き飛ばすような、天才の所行をはじめて目の当たりにして、自分の未来が無価値だと気づかされる瞬間を描いた作品でした。

今作では(結果的には)才能のある人物から見た世界が描かれているので、ハチクロに登場する天才たちの子供時代ともとれるのですが、そうした天才たちだって、子どもの頃には自身の才能を疑ったり、そここら逃げようとしたことがあることを『ルックバック』は私に気づかせてくれた。
そして、小学生の少女が思い描く夢や希望という儚い才能が「そんなの無理」という家族を含む周りからの小さな同調圧力で、いとも簡単に消えてしまうに事実ついて、大人たちに考えさせる良い機会を創出していると思う。

そして、すでに18年前となったハチクロでは、それらはあくまでも自身の中で完結する物語であったが、SNSの存在など、流通する情報量が格段に増えた今では、(京アニの事件のように)創造することの責任が外部にまで及ぶ。そんな視点の置き方も先鋭的だと思った。

とかいった細かい話はさておき、アニメーションとして、とてつもなく質の高い作品でありました。
こういった作品こそアニメーションでなければ描ききれない。
これが実写であったなら、純真さとか、悪意とか、観る者の心のフィルターには異物の方が多く堆積してしまっただろう。
とにかく傑作。久しぶりに早くブルーレイを手に入れて何度も観返したいと思える作品でありました。
(予告編見直すだけで泣けてくる)

(オススメ度:10)

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