日本よりも海外で高い評価を得ているドラマシリーズ『SHOGUN』。
海外ドラマが日本の時代劇を題材にする日が来ようとは、時代は変わってものだと滲みる思い。
時代劇に係わらず、現代劇であっても、欧米から大きな誤解を受けることの多い日本という国の捉え方ですが、トム・クルーズ主演の『ラスト・サムライ』への出演時から「ハリウッドに日本を正しく描かせたい」という真田広之の積年の願いが叶ったということなのだろう。
ジェームズ・クラヴェルの1975年の小説『将軍』が原作。
徳川家康と石田三成の邂逅をモデルにしながらも、物語は完全なフィクション。
史実に忠実だという前評判を中途半端に鵜呑みにして観てしまうと、諸々歯痒い思いがしてしまうので、家康のことは一旦忘れて観た方がいいだろう。
歯痒い思いをしたところで感じるのが「真田広之よ話が違うぞ」という思い。
特に昨年「どうする家康」を観ていたので、太閤や茶々(本作では落葉の方)と家康(本作の虎永)の関係値や、本多正信(藪重)の立ち位置など、余計に歯痒く感じるわけなのですが、繰り返すがこれは創作、フィクションなのであります。
そうして今作を俯瞰することができると、これほどまでに戦国時代の日本の文化や風土、哲学を正確に描写しようと試みたエンターテインメント作品はないと思えるほどに、緻密に史実を踏まえていることが分かってくる。
私たち日本人も、欧米の歴史作品でも特に欧州の歴史ものを観ているときに「欧州の連中は、なんて野蛮で残酷な人種なのだろう」と思わされるが、一切統治されていない、やりたい放題の無法地帯において、国取り合戦を繰り広げれば、たとえ日本であっても同様な残虐性を持つことは少し考えれば分かる。
つまり、大河ドラマをはじめとして、日本で観る時代劇がいかに日本人向けに脚色されているのかがよく分かった。
日本人よりも、日本を訪れる外国人の方が、よっぽど日本文化を良く理解していることはよくあるが、まさにそれの典型例がこの『SHOGUN』だと思う。
そうして魅せられるのは日本人の美意識だ。
多くの人間を魅了することで、自身のために命を消費させる。
その数で勝敗や名誉を別けるのは万国共通だ。
信頼を失えばいとも簡単にその座から転げ落ちてしまうのも万国共通。
人民は何を尊び、何を敬うのか。そして、それを理解した上でそれらを利用する狡猾さ。
その違いに国ごとの文化や美意識が色濃く反映される。
海外の人から観て異質なことや、自分たちにはできない特異なことがどこにあるのか、『SHOGUN』を観るとそうした日本人の美意識の有り様がとても良く見えてくる。
なかなか面白い海外ドラマでありました。
この流れに乗って多くの時代劇コンテンツが海外に取り上げてもらいたいものであります。
(オススメ度:80)
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