CIVIL WAR

全米公開から半年待たされた。
私の大好きな『エクスマキナ』のアレックス・ガーランド監督とA24が放つ、悪夢のような現実社会を描いた問題作。『シビル・ウォー:アメリカ最後の日』。
来週10月4日から公開の本作を、一週間前となる9月26日に全国8ヶ所のIMAXシアター限定で先行ロードショーすると聞き、いても立ってもいられずに東京ミッドタウン日比谷にあるTOHOシネマズまで観に行って来ました。

大統領選を例に挙げるまでもなく、深刻な格差社会とともに分断が叫ばれるアメリカ。
そんなアメリカ国内で内戦が起こるというショッキングな題材を取り上げた今作ですが、そうした現実に触れていればもはや説明は不要とばかりに、映画内では内戦に至った経緯は一切語られない。

連邦政府から19もの州が離脱し、テキサスとカリフォルニアの同盟からなる「⻄部勢力」と正規の政府軍との間で繰り広げられる内戦の模様が描かれるのですが、映画が始まるとすでにアメリカは戦争状態に陥っており、観客はいきなり戦地に放り込まれることになる。

そうしたアメリカの内情を、戦争の模様を追うジャーナリストとカメラマンの視点から描いている。
言ったように内戦に発展した経緯も、19の州がなぜ合衆国から離脱したのかについても一切の説明がない。
描かれるのは、理由もなくただただ殺し合うアメリカ人同士の姿を見つめるジャーナリストと、カメラマンのレンズ越しに映る凄惨な世界だけだ。

なぜアメリカ国民同士で殺し合っているのか。
何に不満があって、何を勝ち取りたいのか。について、一切の説明がないことに対比させるように、そこがアフリカであっても、中東であっても、アジアのジャングルであっても、見慣れたアメリカの景色が砲撃で穴だらけになっていても、戦争が見せる光景に変わりなどないことを映像が雄弁に語りかけてくる。

そうした一歩俯瞰した演出を施しているのは、ジャーナリスト(兵士)がなぜ命の危険を冒してまで戦地に赴くのか。そして、いかに人の死に無関心になっていけるのか。それらについての説明を手厚く描くためだ。

国民に真実を届ける。(現体制を打破して理想の国を実現する。)

という大義名分だけでは到底納得できないような、凄惨な修羅場を潜り抜け続けることに対し、駆け出しの若き戦場カメラマンは血反吐を吐きながら「初めて生の躍動を感じた」(通りかかった先で銃を構えるスナイパーは、狙ってる相手は誰だ?の質問に対し「こっちに向かって撃ってくる奴がいるからそいつを撃ち殺すだけだ」)とつぶやく。
そもそも掲げていた大義などはとっくに超えた先で、自身の生と死の狭間を征くことだけにフォーカスしているように見える。

そうした姿を通して、
誰かが生み出した秩序に不満をぶつけること。
不満の矛先として、相手が誰であれ殺し合うこと。
そして命のギリギリに究極のカタルシスを感じることは、すでに人間に組み込まれたサガなのだと、人類にとって戦争は遺伝子レベルで避けられない麻薬のようなものだと、だから、内戦は西側諸国や、その傘の下にぶら下がる属国でも簡単に起こりうることなのだとアレックス・ガーランドは伝えたいのかもしれない。

そんなこと、理性に富んだ西側の諸国では起き得ないのかもしれない。

と、心の底から思えない自分もいて、
国家とか、
国防とか、
外交とか、
秩序とか、
法律とか、
果ては納税とか、
そうしたものが全て幻想なのだと、誰かが描いただけの砂上の楼閣なのだと、この映画を観ると感じてしまう。
自分も社会や仕組みに対する不満が限界を超えると銃を手に取ってしまうのかもしれない。と、強制的に自身と向き合わされるところが、この映画の一番に恐ろしい部分だと思う。

たまたまなのですが『エイリアン:ロムルス』と、立て続けに日比谷での観劇となったのですが、IMAX Laserの描写力と、音響システムの秀逸さは『CIVIL WAR』でも遺憾なく発揮されていた。っていうか、エイリアンよりもこちらの方がIMAXに向いているIMAXで観るべき作品だ。
音楽を含めて、特に音響にはこだわって作られている作品なので、ご覧になる場合はぜひIMAXシアターでご覧いただきたい。一応言っておくと劇場以外で観ると魅力が半減することは間違いがないので、気になった方は迷わず劇場に足を運んでいただきたい。

『シビル・ウォー:アメリカ最後の日』10月4日来週金曜公開です。

(おすすめ度:90)

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