『エイリアン』初のドラマシリーズ『エイリアン:アース』のシーズン1(全8話)が完結した。
これまで『エイリアン(1979/リドリー・スコット)』、『エイリアン2(1986/ジェームズ・キャメロン)』、『エイリアン3(1992/デヴィッド・フィンチャー)』、『エイリアン4(1997/ジャン=ピエール・ジュネ)』、『プロメテウス(2012/リドリー・スコット)』、『エイリアン:コヴェナント(2017//リドリー・スコット)』、『エイリアン:ロムルス(2024/フェデ・アルバレス)』と続けられてきたエイリアン・シリーズ(エイリアンvs.プレデターを除く)。
その第1作目である『エイリアン』の前日譚を描くドラマシリーズが『エイリアン:アース』。
第1作で惑星探査に向かっていたノストロモ号が、謎の救難信号を捉えたことで惑星LV-426に降り立ち、そこで隊員の一人がエイリアンに寄生されてしまい、宇宙船の船内で未知の殺戮生物「ゼノモーフ」と対峙することになるわけですが、実はノストロモ号は、親会社のウェイランド・ユタニ社にLV-426にエイリアンのサンプルを採取するために派遣されていたことが示唆される。
ノストロモ号が全滅したと考えたウェイランド・ユタニ社は、LV-426に多くの入植者を送り込み、強制的にエイリアンのサンプルの確保に乗り出すというのがエイリアン2のあらすじ。だったと思う。

『エイリアン:ロムルス』はエイリアンとエイリアン2の間を埋めるストーリーで、第1作のラストで主人公のリプリーが脱出艇から宇宙空間に排出させたゼノモーフが繭状になって宇宙を漂っているところをウェイランド・ユタニ社が回収し、顔に張り付いて胚を体内に寄生させる「フェイスハガー」を生み出す研究をしていたのが宇宙ステーション「ロムルス」。
ロムルスの計画も失敗し、ウェイランド・ユタニ社はLV-426に大量の入植者を送り込み、強制的に殺戮生物「ゼノモーフ」を確保するという暴挙に出たわけだ。
ちなみに、「ユタニ」とはウェイランド社を吸収合併した日系企業で、漢字で書くと「湯谷」とのこと。

エイリアン:アースは、ウェイランド・ユタニ社がLV-426にノストロモ号を送り出す理由となる出来事を描くわけですが、驚いたことにウェイランド・ユタニ社はすでに外宇宙に生命体の収集に乗り出していて、採取した生命体を地球に持ち帰る途中で、孵化したゼノモーフに襲われ制御不能になったところから物語が始まる。

サンプルの採取のためにエイリアンがいる惑星を植民地化までするのに、そのずっと以前に、すでにゼノモーフと卵を採取していたという、私が想像していた数倍、斜め上から話が始まってしまった。
正直これには少なくない違和感を感じましたが、過去作との整合性に囚われ過ぎると、自らの首を絞めることをエイリアン3〜4で経験しているからこその思い切りなのだろう。

そうした思い切りは全体デザイン構成にも表れていて、第1作の世界観をモチーフにしている。
この物語よりも時代設定がだいぶ古いはずの『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』のメカニクスよりも、全体的にアナログでクラシックにも映るところは『ファンタスティック4:ファーストステップ』にも通じる最近のSF作品のトレンドなのかもしれない。
時代背景にも大前提が加筆されていて、地球上の行政機関は破綻し、ウェイランド・ユタニを含む巨大企業数社によって治安維持が行われており、民意よりも個人の科学的興味や、拙い自尊心が優先される様も描かれる。
倫理観ゼロで、利益を追求し奪い合う巨大企業たちの巣窟となった地球に、エイリアンは飛来してくる。
つまり、人類が幸せに暮らす聖域に恐怖の大王が降ってくるのではなく、狂った知的生命体が蠢く惑星に、ゼノモーフという殺戮以外の目的を持たない純粋生物が到達するのである。
これはどこかの国の政府機関に、電気自動車と宇宙産業を生業とする企業のCEOが入閣することにどこか似ている。
今作は行きすぎた自国主義の行方を示唆しているとも言えるだろう。

現代社会への警鐘や、辛辣な皮肉ともとれる内容は、AI至上主義社会にも向けられる。
エイリアンシリーズに共通するメタファーとして横たわるのは、ゼノモーフだけではなく、劇中で「合成人間」と呼ばれる人間に似せて作られた人造人間たちの物語も並行して描かれる。
『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』では、人類を生み出した「エンジニア」を探し求める旅のはずが、人類が生み出した人造人間が、自身よりも劣る存在である人類に生み出された事実を拒み、人類より先に神になることを願った挙句に、ゼノモーフという純粋な殺戮生物を生み出すというものズゴイ皮肉に満ちた物語が描かれた。

エイリアン:アースでは、体の一部を機械化した「サイボーグ」、完全なAI生命体である「シンセティック(シンセ)」、そして、シンセに人間の記憶や知能を移植した「ハイブリッド」という存在が登場する。
人間のエゴから生み出された人造人間と、その人造人間が生み出したゼノモーフという存在。
エイリアン:アースは、地球に存在するにはあまりに大きな矛盾を抱えたそれら二つの生命体が、それぞれの存在理由を探し求める物語でもありました。
誰もが同じ想像をしていたと思いますが、私も「地球にゼノモーフが一匹でもやって来たら、えらいことになるゾ」という『ジュラシック・ワールド』のようなパニック作品を想像しておりましたが、このドラマに存在する人類には生き延びる価値すらないという究極のディストピアを舞台にしておりました。

そうした背景を考えれば、最初はその突飛な発想に面食らいましたが、人造人間とゼノモーフが共闘して人類に牙を向くという設定も、とても理に適った納得のいくものだったと、今は思えます。
こうしたシリーズ作品は、続編になればなるほど内容を過激にパワーアップさせていかないとなりません。
そのシリーズの前日譚を描くわけですから、過去作との整合性を維持しながらどうエスカレートさせるのか、かなり興味が湧きましたが、「シリーズでしたっけ??」とうそぶく勢いで展開する、ほとんどシリーズ作品とは独立した衝撃のストーリー展開には素直に脱帽であります。
もしかすると、エイリアンシリーズは、シリーズと謳いながらも、マルチバースばりに並列した世界線なのかもしれない。
『エイリアン:アース』シーズン2も制作決定です。
(オススメ度:100)
SF好きなら尚のこと、こんなおもしろいドラマ、観ないという方がおかしいと思うほどの傑作です。
Disney+でしか観られませんが、Disney+に加入すれば、これまでのシリーズ全作も見放題なので、これまでエイリアンを観てこなかった方でも、予習も復習もばっちりできます!
最後に特報!
『エイリアン vs. プレデター』を、エイリアンシリーズの正史とみなす方は少ないと思いますが、ご覧のようにエル・ファニング演じる主人公の人造人間ティアの背景にはウェイランド・ユタニの文字が!
『プレデター:バッドランド』11月7日、世界同時公開!!!!
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