BMW R1300GS に試乗させてもらった話

本格的なツーリングシーズンの前に、R18の1年/1万キロ点検をディーラーにお願いした。
エンジンオイル、ブレーキフルード、エアクリーナーの交換を含む定期点検作業は2時間適度。
ちなみに「オイル&サービス インクルーシブ」に加入しているのですべて無料。
R18シリーズの場合、3年または30,000kmで154,000円。
点検を受けられるのは1年もしくは10,000kmに一度なので、一回約52,000円。
これまでの経験則から言ってもBMWは乗りっぱなしでもほとんど壊れたりしない。
今回の点検内容であれば、自分でパーツを手配して作業すれば3万円程度なので、パーツ代だけで考えれば確かにインクルーシブは高い。
ですが、比較的オールドスクールな部類に入るR18であっても、電子制御されるエリアは広く、すでに一般的なオートバイ屋さんでは手に負えないレベル。
なのでせめて最初の3年間だけでもディーラーで定期点検を受けておいて、点検結果を基に劣化の傾向を掴んでおきたいと思いサービスインクルーシブには入っておいた。

それはさておき、その点検にかかる2時間を使って『R1300GS』を試乗させていただいた。
私がお世話になっているBMW Motollad さいたまcityには、ニューモデルを中心に常時多彩な試乗車が用意されているのでホントにありがたい。

私が『R1200GS』に乗っていたということも確かにあるが、乗っていたからこそ、GSシリーズが世界一売れている車種であることがよ〜〜く理解できる。
GSシリーズの特徴は、一言では決して説明しきれないが、あえて2つに絞ってお伝えすれば、「1日/1,000km走行」を本気で狙うために設えられたオートバイであること。そしてその1万キロには、舗装路だけでなく「砂漠やジャングルも含まれる」ということにある。

GSとは「ゲレンデ(野山)・シュトラッセ(道)」という略から、今では「ゲレンデ・シュポルト(スポーツ)」にまで解釈が拡大されているが、いずれにせよその名は道を選ばない道具であることを示していることに違いはない。
そしてそれは誇大表現でも何でもなく、GSは自他共に認める世界一のデュアル・パーパス・マシンだ。
いかなる道も征服せんとするモーターサイクルの最高峰。
つまりGSの最新モデルは、最先端技術が結集された現代最高のモーターサイクルであるということ。

「最高出力」、「最速」など、「最高」の価値基準はライダー一人ひとりにあるものだとは思う。
言ったように、BMWがGSで目指す「最高」は「砂漠であろうと、ジャングルであろうと、1日に1,000km前進できるモーターサイクルのことだ。
そのためには「壊れない」ということだけでなく、「ライダーに事故を起こさせない」ことも求められる。
いざというときに発動するパッシブセイフティ、アクティブセイフティの追求に加え、走る・曲がる・止まるのすべての操作において「ライダーの疲労を最低限に留め、集中力を維持させる」ためのキメ細かい改善の積み重ねを、その歴史のすべてで追求をつづけてきたBMW独自の哲学が根底にあって達成される孤高の頂。

最新のGSに乗ることは、
最高のモーターサイクルに乗るということ。

R1300GSはとにかく乗りやすい。
私が比較的オートバイの経験が豊富で、身長も178cmあるからだと決めつけるのは早計だ。
エンジンレスポンス、リーンレスポンス、ブレーキレスポンスのすべてがライダーの手のひらの中にすっぽりと収まってくれる。
「釈迦の手のひらで転がされる」と言うが、GSに関してはまったくの逆。
完全にライダーの手の内からオートバイが飛び出すことはない。
これはすでに「モビルスーツ」だ。この感覚は初心者であれば余計に影響が大きくなるものと思う。
もし、最初のオートバイにR1300GSを選んだとしたら、もう他のオートバイには乗れなくなるだろう。

これまでのボクサーエンジンは、クランクの段差ぶん左右のシリンダーが前後にズレていたがいよいよその段差はなくなり、左右のシリンダーは完全に平行して配置されるようになった。
そのためか、特徴的だったアクセルオンで車体ごと左に持って行かれるトルクリアクションは完全になくなっていた。
リーンアクションが左右で微妙に違うなんてのはもう過去の話。
昭和世代は「それもボクサーエンジンの味ってやつだよ」とか、若い人たちに散々うそぶいていたが、そんなのない方が良いに決まっている。

ブレーキの仕様はまんまレーシングモデル。
捻れ剛性に優れるラジアルマウントキャリパーは、今では一般的な装備になりつつあるが、私に言わせれば、見た目重視の「なんちゃって」が多くはびこっているのが実状だ。
そうした中、この高い工作精度には目を見張らされる。
設計から製造、組み付けに至るまで、精密に考え抜かれている逸品であることが見た目からも伝わって来る。
もちろん、ホンモノのブレーキシステムはそれ単体で成立するはずもなく、フロントフォークを含むステム剛性、それを支えるメインフレームまで仕上げて初めて達成されるもの。
これを採用した理由は伊達でも冗談でもなく、本気でこのレベルが必要とされる域まで安全性をカバーしようとする呪いに近い意志の強さが、分かりやすく垣間見える部分。

リアのサブフレームは私のR18と同様にアルミ・モノコック構造。ただしこちらは強度に優れる鍛造製。
タンデムに加えて、重量の嵩むパニアケースの装備を見越した高剛性を目指している結果の選択。
デザイン的には本来スッキリとさせたいところなのですが、多くの荷物を運べなければならないことも重要なBMWの「呪縛」だ。
デザイン性と積載性のバランス、そしてそれによる重量増と軽量化のバランスは、BMWにとって常に最大の課題となって襲いかかってくる部分。
それもあって構造体としてのデザインはここだけ粗っぽく見えてしまう。
他のカラーバリエーションでは、それを隠すようにここがブラックアウトされているのですが、この『GS Trophy』では、そこをあえて目立たせる白にカラーリングにしているところがミソだと私は思う。
隠すのではなく、あえて魅せることで鍛造であることを逆説的にアピールしている。

“×印”ヘッドライトは賛否両論別れるところでありますが、私はダイスキ。
それはデザイン的な好き嫌いという意味でもあるのですが、この上側にある車間距離を自動で制御するアクティブクルーズコントロールのレーダーと、複雑な電子制御盤が納められている決して小さくないボックスを、これまでヘッドライトとメーターが占めていた空間に見事に隠して魅せているところがとても秀逸だと思うから。
ホント上手いこと隠蔽している。

BMWはDUCATIのような洗練されたデザインは苦手、と言うか、そもそもDUCATIなら、美観を損ねるような装備の採用は、装置の小型化が進むまで見合わせるだろう。でもBMWは必要とあらば何をしてでも搭載してくる。そうしたときの手際の良さはまさに質実剛健を地でいく上手さ。

道なき道を征くデュアルパーパス・モデルが安全性と操安性を高次元でバランスさせるとき、一番に浮き彫りになるのが「車高設定」だ。
基本的に車高を下げてサスペンションの動作範囲を短くした方が直進性を含めてオートバイの安定性は高くなるが、コーナリング時にはサスペンションのストロークを長く取って路面変化に対応させたい。
もちろん更に路面変化が大きくなる悪路を進むときは車高を上げて対処したい。
それら二律背反する要素を電子制御は魔法のように片付けてくれるのですが、その発想を乗車時の足つき性にまで拡大してきた。
これまでは欧米人の体格を基本とした車体設定を施して出荷し、仕向地ごとに仕様を変更する手法を採ってきたが、いよいよベース車輌から世界標準としてきた。
走り出して50km/h以上になると前後の車高が自動で嵩上げされ、50km/h以下になるとまた下がって足つき性が確保される『アダプティブ・ヴィークル・ハイト・コントロール』と呼ばれるもの凄い技術が奢られている。
乗車時のシート高のダウン量も好きに設定でき、走行中その変化を感じ取ることはほぼ不可能。
50km/h以下とは言え、車高が変わるとハンドリングにも影響が出るはずなのだが、それが皆無。
これまでは日本専用のセッティングとなる『プレミアムスタンダード』などが用意されており、ローダウンモデルを含め、それらはシートの肉厚を含めたオリジナルのハンドリングは諦めなければならないものだったが、そもそももうローダウンモデルの必要すらないのである。

これだけサスペンションを電動で制御しつづけていれば、比例して故障の可能性も拡大しそうなものだが、BMWにとって、すでに4輪でやり尽くしている技術だ。その心配はご無用といったところだろう。
ただ、もしものときのパーツ代は知りたくもない額に上るものと想像される。人ごとながら怖い・・・

といった具合に、現代最高、つまり現在の最先端のモーターサイクルにとって、電子制御はすでに屋台骨。
多種多様な特殊工具を使って設定を変更させ、しかもその設定には少なくない知識と経験を必要としていた“石器時代”とは違い、液晶メーター上で、様々な設定がカンタンに、そしてより適切に行える。
ただ、試乗前のコクピットドリルくらいでそのすべてを理解するのはまず不可能。オーナーになるか、最低でも一週間は一緒に過ごさないとそのすべてを活用できるようにはならないだろう。

んで、結論でありますが、さんざん煽るようなことを書いておいて誠に恐縮なのですが、残念ながら私はR1300GSに乗り換えたいとまでは思えなかった。
購入資金は元より、もう一台オートバイを置く場所も、乗ってあげる時間もない私にとって、R1300GSがR18との乗り換えに値するものではないことがその一番の理由なので、R1300GSに魅力がないわけでは決してない。
なので、お門違いは承知の上で言わせてもらうが、以前『アウディA5 スポーツバック』に試乗したときと同様に、「異様なほどの自然さ」を感じさせる“不自然さ”に、どうにもこうにも身体も頭も馴染めない。
エンジンレスポンスも、ブレーキタッチも、コーナリング中でも、自分以外の何かが常に操作に介入してくる強めの「お節介」に、むしろ違和感を感じてしまう。
やはり私は、多少危険であっても、むしろ運転に疲れさせられても、シンプルに“エンジンらしさ”を含む、旧来からのオートバイを操作する歓びに浸りたいと切に願う。
やはり私にはR18くらいの電子制御が合っているのだと実感させられた。

もちろんBMWもそんなことは百も承知で、だからこそ『R18 Pure』や『F900GS』なんていうあまり操作に電子制御を介入させないオールドスクールなモデルを平行してラインナップしているのだろう。
それを今知っておくという意味でも、現代最高峰の技術のほぼすべてが投入されたR1300GSに乗っておくのは、とても有意義なことだと思った。

なんつって、もし何かの間違いでR1300GSを手に入れることになったりしたら、サラッと手のひらを返すことだけは断言できる。だって、掛け値なしに現代最高のモーターサイクルなんですもの。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメント一覧 (2件)

  • へそまがり様

    今回も楽しく拝見しました。
    自分も1,000km点検の時にスタッフから「色々と試乗できますよ」と、
    言われましたがR18やGSの大きさに
    少し及び腰になっていました。
    けど、昔から評判の良いGSは乗ってみたく思っていたので今更ながら
    「やっぱり試乗しとけば良かった」と、悔やんでいますw
    今回の内容を読んで次回の点検時には積極的に試乗してみたいと改めて思いました! 梅雨から真夏に向けてバイク乗りにはちょっと厳しい季節になりますがお体に気をつけてお楽しみ下さい。

    • shindo3さん
      こう言っちゃあナンですが、気楽に試乗車に乗らせろと言えるのは、ディーラーで購入した者の特権だと思ってます!

コメントする

目次