The Son / 息子

ファーザー』でアカデミー賞 脚色賞を獲得したフロリアン・ゼレールの長編第2作。
祖父役でアンソニー・ホプキンスが出演しているが、両作に物語上の関連はない。
ただ、アンソニー・ホプキンス演じる祖父が、厳格でいて家族を顧みない仕事一筋のビジネスマン。という設定は、ファーザーと共通している。

ファーザーではすべてを完璧にこなす人間が、その知性のすべてを奪うアルツハイマーを発症するとどうなるのか?というほとんど実験的な世界観を、発症した人間の視点で描く意欲作であった。
『The Son』では、そんな完璧主義の親に育てられた息子の、その息子が極度の鬱病になってしまうことで、家族に襲いかかる様々な難題や問題を描いている。

完璧な人間とは何か?
完璧な人間は、いかなる状況でも一人で生きていけるのか?
仕事と家族と、両方を完璧に熟せる人間は、果たしているのか?

というテーマを捉えたとき、「ファーザー」と「サン」の両作はリンクする。
なので、連作ともとれるし、兄弟作ともとれる。

そして、アルツハイマーと鬱病という、2つの症状が浮き彫りにする世界は、健康に生きる人々にとって、オカルトかスリラーに類するものである。という観点もこの2作には共通している。

そして、アルツハイマーも鬱病も、コミュニケーションを断絶する。
ということも、この2作の重要なテーマだ。

とどのつまり、人間は社会というシステムの加護がなければ生きていけない。
という当たり前の事実を前にして、「完璧」と呼ばれる状況や状態のためには、やさしく接するにせよ、威嚇して優位に立つにせよ、周りの人間たちとのコミュニケーションの重要性がひときわ高くなるということだ。
自立する前の子供も、大人に忖度するにせよ、嘘をついて自身を守るにせよ、同様にコミュニケーションがとても重要になる。

そういうシステムを利用してきた側の人間からコミュニケーション力を奪い取ると、愛から「信用」という絆を奪い取ると、その関係値に一体どういった事象が起きるのか。
そうしたある種の恐怖体験を、ときに実験的に、時に冷徹に、今作は描き出している。

果たしてその正しさに希望はあるのか。間違いは絶望に繋がっていくのか。
エンドロールが上がるその瞬間まで刮目してご覧いただきたい。

(オススメ度:70)

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