コンセプトモデルが発表されてから、その美しいアピアランスに一撃で心を奪われてしまった『R20 Concept』。発表から1年が経つが、未だ市販化のニュースはない。
2リッター水平対向2気筒エンジンを搭載したロードスターという、かなりニッチでまあまあクレイジーな商品企画ですので、開発費などの投資を回収できるだけの台数を捌けるのか?と、皮算用すれば、それが微妙であることは想像に難くない。
「じゃあなんでコンセプトモデルなんか見せるのよ」と思われるかもしれないが、化石燃料の枯渇とともに、存在理由さえ危ういモーターサイクルの場合、現実と地続きの世界に夢なんか見られません。クレイジーだからこそ夢を見させられるのでありますよ。
バックギアのリコールの件でディーラーに行った際に、1週間後に迫った今年の東京モーターサイクルショーに『R20 Concept』と『F450 GS Concept』が展示されることを知った。
ディーラーに行ったその日はまさに、東京に先立って開催される大阪モーターサイクルショーの開催日で、もしかしたら毎年開催されているモーターサイクルショーにR20が展示されるのでは、と淡い期待を抱いていたものの大阪ではR20は展示されなかったので、東京でも展示はないのだろうと諦めていたのですが、急遽出展が決定したのだという。
あの美しいコンセプトモデルを、一度はこの目で見ておきたいと願い続けてきた私は、東京モーターサイクルショー初日となる28日(金)に、東京ビッグサイトまでR20を観に行ってまいりました。



R18は間違いなくエンジンを味わうための乗り物ですが、R20はそうした考え方を更にもう数段階先に進め、ビッグボア・ボクサーエンジンを味わうためのハンドリングを追求するためのコンセプトだ。
あくまでも主役はエンジン。そこにタイヤと最低限の外装を施しただけのシンプルでいて潔いアピアランスこそ、モーターサイクルの原風景だと私は思う。これは私のような青春時代とモーターサイクルが密接に関係していた世代でなくても、オートバイに「自由」を感じとれる方なら、誰でもR20の魅力を受信できるだろう。そういう意味の「原風景」。
このコンセプトモデルにも「現実的」なウィンカー、ミラー、ナンバープレートもないし、吸気系も排気系もいわゆる“直管”のままで、このままで実際の道路を走ることもできなくもないが、道交法との整合性を含めてコンビニエントではない仕様になっている。
ここに決して小さくないエアクリーナーボックスやキャタライザー、マフラーの消音装置が追加されることを想像すれば、市販時にこの美しさが維持される可能性はかなり低い。BMWというメーカーの位置付けを考えれば、そもそもシングルシーターのままで市販されるわけがない。とも思う。

R18に関しても、実際に市販されたモデルは美しいコンセプトモデルとは似て非なるものになってしまったので、R20に対しても大きな期待は禁物。
それでも私に大きな夢を見させてくれるのがR20だ。
もしこの必要最小限のミニマルコンセプトを貫いた装備で市販化するとしたら、その場合は世界限定100台であるなど、R18を下取りに出したくらいでは到底追いつかないかなりプレミアムな一台となってしまうだろうから、掛け値なしに「夢」なんですけど。

ミニマルな意匠を纏うR20ですので、マルチリンクサスペンションを含むリアセクションの充実した造形の美しさに真っ先に目がいく。
アッパーアームを高い剛性と精密さを表現したアルミの地肌を剥き出しにしたものとしながら、スイングアームをオーソドクスな丸パイプ製とすることで、新しさと懐かしさを見事に共存させている。

リアホイールは超ゴツいドラッグ系デザイン。カッコいいけどこれはかなり重そう。
R18から受け継がれるオープンドライブシャフトはR18の半分程度の長さ。
R18を隣に並べるまでもなく、ホイールベースが比較にならないくらいに短いことを感じさせる。

唯一のボディパネルとなる燃料タンクの形状はかなりオーソドクスでむしろ特別なことは何もない。
むしろその割り切り方が超カッコいい。ここのカラーリングにはかなり悩んだことだと思う。
そうしたミニマルな印象を獲得するためには、ハンドル周りは極限的にシンプルにするに限る。
これはR18をカスタマイズする中で痛いほど感じた部分。
R20には超小型のブレーキ、クラッチマスターが採用され、メーターもほとんど申し訳程度。
私もBERINGER製の小型のマスターシリンダーに交換したい〜〜

対抗6ポッドのラジアルキャリパーが目を惹くが、実物を目の当たりにするとフロントサスの極太インナーチューブの方がエグいことに気づく。
ツアラーであるR18とは違いR20はロードスターなので、ある程度最低地上高を上げてバンク角を確保したいのですが、あの巨大で重いエンジンを高い位置に搭載すると操案性にかなりの影響があるはず。それを抑えるために足回りは相当に締め上げられているものと想像される。
フロントフォークの有効ストロークは3cm程度と言ったところか。フロントをリジット気味に動かして積極的にリアステアで走らせる設えが想像される。
コンセプトモデルにABSなんて着いてるわけないから、ウェット路面でのハードブレーキングはかなり怖そう。
これほど足回りをガッチリさせないとならないところを見ると「速いんだな」以前に「やっぱり重いんだな」ということの方を先に感じてしまう。そういうところがクレイジーで大好きなトコロ。
とか言ったことを想像させるのはコンセプトとは言え、これが実走行可能なモデルだから。
モックアップのナンチャッテ・コンセプトとは説得力が違う。


このヘッドライトの造形がとっても素敵。
ハロゲンバルブの時代はヘッドライトレンズの大きさに比例してヘッドライトの明るさが増したが、LEDの時代には光源を拡散させるためのリフレクター(反射板)はもういらないのであります。
それでもやはりモーターサイクルのデザインを考えた時には、こうしたボリュームと造形がこの位置に必要なのであります。
ここにも懐かしさを最新のデザイン手法で昇華しようとするアイデアが窺える。
これは市販車にも活かせるまさに“スタディモデル”としての部分。私のR18にもこれ欲しい。

R20の画像は、それこそ舐め回すように何度も見てきたが、画像を見るのと実物を見るのとでは、想像以上に大きな違いがあった。
モナ・リザやゴッホのひまわりを実際に見るのと同じ気持ち。もはや芸術鑑賞。

繰り返すが、2,000ccのボクサーエンジンを積んだロードスターに需要があるとは到底思えない。
BMWにはすでに『R1250 R』と『R12 NINE T』というボクサーエンジン搭載のロードスターが2機種もある。
ただ、会場でのR20の注目度は高く、この魅力的なデザインであれば、その2機種に割って入る第3の1,200ccロードスターとして、ビジネスとしても成立するかもしれない。
ただ、ビッグボア特有の「豊かな」トルクを、「芳醇」と言っていいレスポンスでデリバリーする大排気量OHVエンジンを、軽快にスポーティに味わうと、一体どのような世界が広がるのか、R18オーナーならば尚のこと興味は尽きない。私には買えそうにないが、今の設定のまま製品化して欲しい。

もちろんビッグサイトまではR18に乗って行った。
高倉健の映画を観て、劇場から肩で風を切って出てくるのと同じ感覚。
会場で得た興奮をそのままに、R18を味わいながら帰る。
う〜〜ん。俺のR18はやっぱり最高だ。
R20はメーカーカスタムだからこそ実現できた、まさにスペシャルなカスタムモデルなので、一般人の私が参考になるとか言っても全く説得力がないと思いますが、R20の纏う世界観や空気感のようなものはビンビンに受け取ってきた。
「せっかくモーターサイクルなんて無駄なモノに乗っているのだから、伊達や酔狂だけで乗りこなしてみろよ」と、R20は私に伝えてくるのであります。
こうしたことを通して自身のモーターサイクルライフを豊かにするのもライダーの嗜みだと思う。
明日はR20以外の東京モーターサイクルショーの会場で気になったモデルやアイテムを紹介いたします。
コメント