松本までの距離はツーリングとしてかなり絶妙で、加えて屈指の快走路として知られるビーナスラインからすぐという、一泊ツーリングの宿場として、松本は絶好のロケーションにある。
しかも、夜の食の豊富さもまた埼玉から300km圏内にある都市としては屈指の存在。
私は松本にツーリングに行くのが大好きだ。
埼玉からビーナスライン〜松本へ向かうルートへは、大きく分けて関越〜上信越道側から向かうのと、中央道側から向かう二つがあり、私は上信越道側となる佐久から蓼科スカイライン経由でビーナスラインの起点となる白樺湖へ向かうルートがお気に入り。
ただ、今年すでにそのルートは走っているので、今回は味変を加えてみようと思い、先日思いつきで走った長瀞〜下仁田の下道ルートを走り、佐久から蓼科スカイラインではなく、一本手前のメルヘン街道から麦草峠を経由して白樺湖へ向かうルートに決めた。
いつも通り、天気だけでなく、家と仕事の事情に加え、ホテル代をおさえるという最大の理由との兼ね合いもあり、文化の日から行くことに決めた。
秋雨のような前線の張り出し方もあり、予報は1日ごとに変わる有様。
実は通行止めの続く志賀〜草津高原ルートを、万座三叉路まで迂回する万座ハイウェイルートを走って長野に入るルートも検討していたのですが、いかに予報が1日ごとに変わろうとも、万座温泉〜志賀高原だけはず〜〜〜〜っと「雪」の予報のままだったため断念した。
ビーナスラインは晴れ予報のままだったのですが、出発のタイミングになると、いよいよビーナスラインも昼ごろに一時雨の予報となってしまった。ただ、もう他のルートを考えるのも億劫だったので、雨に降られることも覚悟の上でビーナスラインに突撃することに心を決めた。

ここのところの気温を前提に、真冬のオートバイ用の装備を「10」としたときに、「6」程度着込んで走り出したのですが、5分も走らず「こりゃ無理だ」と諦め家に引き返した。
そうして「8」くらいの装備で再出発したのですが、まさかこのあと「木枯らし1号」が吹き、この日を境に一気に季節が冬に切り替わるなんて、思いもよらなかった・・・

まだ日差しからの暖かさを感じられた神流湖あたりを過ぎ、南牧村に向かう45号線へ右折するという段になって悪知恵が働いた。
その交差点を曲がらずに真進すると、そこから先の国道299号線は『酷道』と呼ばれる関東屈指の悪路として名高い道。
舗装はされているものの、道幅が狭く屈曲のきついつづら折れのカーブが続くというこの道は、落石などで通行止めになることも多く、快適なツーリングやドライブを望むならば極力避けるべきルート。
そんな険しい道が、今も「国道」としてナンバリングされているのは、この299号線が先述した上信越道と中央道のちょうど真ん中を走るショートカット道だから。つまり、仕方なく長野と群馬を往復する人のための生活道路なのであります。
ロングホイールベースのR18にとって、お世辞にも快適とは言えない酷しいルートなのでありますが、「いったいどれほどの酷道なのか、この目で確かめてみたい」という好奇心の方が上回ってしまった。
何より、新たにリアに装着されたOHLINSサスペンションがあまりに調子が良く、それでつい、いい気になってしまった。というのが真相。

そうして恐る恐る走り始めた299号線ですが、要は昔よく走った砂利道の林道が舗装されてしまったパターンだった。それもあってどことなく、と言うか、かなり既視感がある。記憶に残る中津川林道にとてもよく似た印象でありました。
通行量は極めて少ないのですが、少ないながらも対向車もあるため、決して気は抜けないものの、林道特有の、リズムのようなものが思い出されてからは逆に、この道を走ることが楽しくなってきてしまった。



そうした山間部の厳しい場所でありますので、木々の紅葉具合もなかなかのもの。
むしろとても良いタイミングで訪れることができた。


紅葉を楽しむための重要なポイントは、やはり太陽光だと思う。
細い林道を覆うように並ぶ木々の色づいた葉を透過する光が、紅葉をより美しく魅せてくれる。
なんという美しさ。


たまにガードレールの切れた場所もあって、まあまあスリリング。これもまた既視感のある林道らしいトコロ。
自然の深い場所を、自然の造形に沿うように走る道だからこそ、自然を切り崩してまで走りやすくした一般道とは周りの景色が全く違う。やっぱ林道はこうでなきゃ。


どちらかといえばハンターカブの方が合っている道だろうと想像しておりましたが、R18でも十分イケる。



ほどなく群馬と長野との県境となる十国峠に到着。
小さい展望台もあるのですが、展望台が完成してから周りの木々がそれを追い越すように伸びてしまったようで、残念ながらそこからの眺望はたいしたことはない。


十国峠を過ぎてほどなく、走りやすい二車線道路となり、ここで酷道は終わり。
うれしいような寂しいような。腹八分目感もまたちょうど良い距離感。
なんて調子のいいことを言っているからなのか。
このあととんでもないしっぺ返しに遭うこととなった。
299号線は、酷道であったことがまるで嘘であったかのように、長野に入ると『メルヘン街道』というとても景観の良い走りやすい道に変貌していく。しかも、素敵なメルヘンな風情のまま白樺湖に出てしまう。酷道部分さえクリアできれば、私のプランにとってこれ以上ないほど最高に都合の良い道なのですが、十国峠を過ぎて長野側に出てから天気は下り坂。それまで覗いていた太陽も隠れてしまい、それに伴って気温もさらに急降下を始めた。
「なんか寒くなってきたな〜」とか思いながらも、そんなメルヘンな街道を鼻歌混じりに走らせ『八千穂高原スキー場』に着いたのですが、ここで、いきなりの積雪。
時間はまさに雨予報のあった昼ごろ。


進行方向には青空も覗き、最初はまだ気持ちにも余裕があり、ウェット路面のまま峠を越せるだろうとか思ったのですが、この数十メートル先、画像のカーブを過ぎたあたりから凍結路になっていた・・・
「こりゃあ無理だ・・・」と引き返すことにしたのですが、時すでに遅し。
凍った路面でR18をUターンさせる恐怖と言ったら、まさに筆舌に尽きる体験だった。
まだ雪がふわっと路面に乗っている部分でなんとか向きは変えられたが、当然その先は下り坂・・・しかもカーブなのでブレーキは必至。「絶対に転ぶ」と、かなり強めの覚悟をしましたが、両足ががっちり着く車高の低さと、車重の重さが逆に功を奏し、なんとか無事に引き返すことができた。ホントに助かった・・・
と、安心したら、急に寒さが体全体を覆い、歯がガチガチと鳴るほどの悪寒に襲われはじめた。

一旦通り過ぎたスキー場の向かい側にある『ロッジ八ヶ嶺』まで引き返し、何はなくともロッジ内に避難することにした。まさに山の避難小屋。

開口一番「オートバイでよくここまで上がってこられたね」と、おカミさんに言われた。
朝からまあまあの降雪量だったらしい。
石油ストーブで暖をとり、温かい手打ち山菜そばと、落としたてのホットコーヒーをいただき、やっと一息つけた。
「8」レベルの装備では到底太刀打ちできない、絶対零度のすでに完全な冬だった。あまりに考えが甘すぎた。
レザージャケットの下に電熱ジャケットを着込んでいたことがせめてもの救い。これがなかったらホテルの当日キャンセル料を払ってでも家に引き返していたと思う。

言ったように酷道299号線〜麦草峠は上信越道と中央道の真ん中を走る、白樺湖に向かうショートカットルートなので、他にもう逃げ道がない。さて困った。
すでに頭の中はビーナスラインのことよりもホテルの大浴場で温まることでいっぱい。
とにかく早く松本に着きたい。
上信越道方面か、中央道方面か。いずれかを迂回して松本に向かう他ないのだが、八千穂スキー場から諏訪湖まではいずれにしても90kmほどある。
どうでもいいことですが、こうして双方のルートを描くときれいなハート型になるんだな。
それはさておき、あとから調べたらこのときビーナスラインもかなりの降雪であったらしい。

ビーナスラインの雪はそのあと雨に変わり、気温も上がったため雪は溶けたようですが、志賀は予報通りに雪が降り続き、ものすごい積雪量になったようだ。
無理して向かわなくて良かった〜〜〜〜〜この時期の山岳路はホント怖いな〜〜〜〜

すでに確認が済んでいる来た道の方が安心なので、佐久に出て142号線から諏訪湖に向かうルートに変更した。

標高を下げるにつれ一旦気温は上がってきたものの、陽も翳り始め、また標高が上がると気温は急激に下がってきた。前回、奈良井宿からこちらに向かって走った際に通った和田峠に出るルートなら、諏訪湖まで行かずに扉峠から松本に抜けるショートカット路が使えるのですが、この寒さによって凍結路の恐怖がまた蘇ってきたためそれは諦められた。
言ったように、この時の私はまだ知らなかったのだが、ビーナスラインも雪が降っていたようなので、日陰だったはずの扉峠に行っていたら、さらに恐ろしい思いをするところだった。
「なんとかなるさ」「行けるとこまで行ってみるさ」という私のイケイケな好奇心が良い方に出ることも多いのですが、裏目に出ることもまた多い。
思いとどまることができたのは、再び襲ってきた寒さのおかげだ。結果論ですが、ビビって引き下がってホントよかった。

15時前にはチャチャッと到着して松本の街をゆっくり散策する予定でしたが、結局松本に着いたのはほとんど陽も暮れた18時前。
一直線にホテルに向かい、大浴場できっちり温まってから、いつもの松本城まで歩いた。
湯冷めしちゃうかな?と思いましたが、オートバイに乗っている時と違い歩いていると寒くない。
こうして美しい国宝を眺めていると、寿命の縮まる思いがした麦草峠での恐怖体験もすっかり遠い過去の記憶。
そうして、ある意味この旅のメインイベントである、夜の松本に打って出る。
松本城を眺めてから向かう繁華街が、松本市内のベストルート。



自分の嗅覚を信じて、繁華街を行ったり来たりしながらお目当ての店を探すのがへそ曲がり流。
これまでは雰囲気の良い昔ながらの居酒屋を攻めましたが、今回は肉料理を得意とする創作居酒屋といった風情の『百式』の暖簾をくぐることにした。
串焼きにはちょっと捻った創作感を感じましたが、『炙り馬刺し』、『ホタルイカの沖漬け』、肉で出汁をとったというお茶漬けは、創作というよりもきちんと地に足のついた、日本酒によく合う旨い料理たちでありました。
これだから松本の夜探訪はやめられない。幸せだな〜〜〜〜

紅葉の深まる酷道299号線を味わい、凍結路の峠道で冷や汗をかき、あまりの寒さで泣きそうになりながら走り抜けた往路は、それはそれで思い出深い旅路となった。酒の肴にはもってこい。
・・・この翌日に懲りもせずに同様の恐怖体験を繰り返すことになるとは、ヨッパライには思いもよらない。
そんなわけでスイスイとお酒も進んで20時過ぎにはバタンキュ〜〜
あ〜〜良いツーリングでありました。
明日の天気も良好。雪が降るなんてことはなさそう。
これで安心して『もみじ湖』に向かえる。
(つづく)


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