いまや次世代を担う期待の星となったティモシー・シャラメ。
甘いマスクが魅力のイケメン俳優の枠を超えて、挑戦的な役柄に挑戦していく、もしくは先鋭的な製作者に求められる存在にまで成長していく姿はレオナルド・ディカプリオと重なって見える。
そんなティモシー・シャラメが挑むのは、もはや生ける伝説となっているボブ・ディラン。

『ボヘミアンラプソディー』『ボブ・マーリー/ONE LOVE』と、ここのところ続いているアーティストの伝記映画の連作とも言える。
ただ、『名もなき者』は、伝説的なアーティストの描き方として、一歩引いた姿勢が貫かれている。
貧困層の出身者の成り上がり物語、自由奔放な女性関係、ドラッグといったこの時代のアーティストに向けられがちなステレオタイプな人間像、そして、時代を大きく変革した先駆者であることを描いていることに違いはないのですが、それらの解釈に関して、製作陣のバイアスが一切かけられず、終始事実を羅列することに徹している。
それだけティモシー・シャラメという俳優の存在感に自信があるということなのだろう。
彼が浮き彫りにするボブ・ディランという人物像を、一切の加工をすることなく観客の前に置くことを意図している。
私にとってディランはリアルタイムでは知らないので、実際の彼のイメージとどれだけ違いがあるのかは分からない。
実際の彼を体験した方が見れば十分に加工が施されているのかもしれないが、そうだとしてもティモシー・シャラメ版のボブ・ディランから感じ取ることに集中してしまって構わないと思う。
そうした視点で観てみれば、彼がノーベル文学賞を受賞し、「先約があるため」と書簡で授賞式を欠席することを伝えた彼の創作意欲の源泉が、単なる反骨精神ではないこと。そして、彼が変えたかった「時代」とは、音楽業界に留まらず、人々の近視眼的で偏狭な価値観を変えることであったことがよく分かるだろう。
(オススメ度:80)
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