もうだいぶ前から最初のツーリングは白馬に行くと決めていた。
いつもスキー、スノーボードで滑っている八方尾根の林間コースを伝って、
黒菱ゲレンデまでクルマで上がれるということを、八方尾根から送られてきたメルマガで知ったということもある。
でも一番の理由は、毎冬通って体感的に理解できている白馬までの道程が、
R18を身体に馴染ませていくのにちょうど良いように思えたこと。
ちなみに、9月に白馬で開催される『BMW MOTORRAD DAYS』の下見でもなければ、
そもそも行くつもりもないのでそれとは無関係。
納車が遅れに遅れて結局7月ももう終わり。
できればもう少し涼しいうちに来たかった。
空冷エンジンには辛い猛暑ではありますが、だからこその長野行だ。
ここのところ長野と北陸方面ではほぼ毎日、昼過ぎから雷を含む豪雨に見舞われていて、
それだけが気がかりだが、寒気が流れ込んでいるということなので涼しいことだけは確かだ。
確信犯的に寝坊して9時出発。
海でも雪山でも、まだ暗いうちに家を出ることに較べれば、オジサンの趣味として、寝坊できること以上嬉しいこともない。
そして、林道に向かっていた頃は、全身にプロテクターを装着するなど、
出発の準備段階ですでにゲッソリとしていたので、
サクッと準備が済んでしまう気兼ねのなさも、とても気分だ。
こういうところもR18を選んだ所以でもある。
気軽にオートバイと向き合えるのは良い。
もちろんR18でだって転倒のリスクはあるし、
スピードの乗るアスファルトなら、林道よりも深刻な事故に遭う確率は高い。
なので、R18だからといって、プロテクターが要らないわけではない。
でも、どこで気持ちを抑えるべきか、どこで集中するのか、など、年相応にリスクの取り方が分かって来た気がする。
慣らし運転ということもあり、高速道路で一気に距離と時間を稼いだ。
関越道から上信越道に入り、松井田妙義を過ぎる頃から涼しくなって来た。
ここから上信越道は高原地帯を走るので涼しいし気持ちイイ。
これまではオートバイで高速道路を走るのが苦痛で仕方がなかった。
R18だと退屈な高速道路も立派な“目的地”になる。
カウルを持たないR18 Pureは、HP2 Enduroと同様、120km/hまでは何とか許容するが、
風圧的には90km/hくらいで流して走るのが適度だしもちろん安全でもある。
エンジン、ギア、タイヤから痺れるような微振動が襲いかかってくるHP2に較べれば、
ずっと快適なのですが、90km/h以上は風切り音で疲れさせられることに変わりはない。
何より、90km/h程度に抑えて走ることで、
R18最大の魅力であるOHVボクサーツインを最大限に味わうことができるので、
むしろ積極的にこの速度域を保ちたい衝動に駆られる。
航空機のエンジン製造からはじまったBMWだからこそ作り続けられるボクサーエンジンは、
プロペラ機の滑空を想起させるような肌触りや感触を、逐一乗り手に伝えてくる。
それが永遠に続くように思える高速道路なら尚更に車体を止めたくなくなる。
柔らかで穏やかな空間に包まれるようなR18の乗り心地は、
疲れさせないだけでなく防音設備の整った部屋でクラシックを堪能するようにエンジンの振動を心地良く味わうことができる。
同じR18でも、Classicや、B、Transcontinentalなどの風防を装備するモデルでは、
高速域で尚こうした感動を得られやすいようにできているのだろう。
そうと分かっても、すべての道でR18を味わいたい私にとってのベストチョイスは、
やはりボバースタイルを身に纏ったこのPureだ。
そんなR18 Pureだからこそ楽しむことができる、
白馬の麓から約9kmつづくつづら折りの林道を走ると黒菱駐車場に到着する。
ちなみに、黒菱スカイラインと呼ばれるこの林道は全線舗装されている。
端折ってしまいましたが、
長野I.Cから19号〜白馬長野有料道路を経て白馬へ向かうルートは、
停まって写真を撮る時間も惜しいほどR18に最適な快走ロードでありました。
滑ったことのある人ならご存じの通り、
お世辞にも広い道幅ではないのでスッ飛んで降りてくるクルマとブラインドコーナーですれ違うのはちょっと怖い。
そんなタイトなワインディングは本来R18が不得手とする場面なのですが、
ドラッグバーだと抑えの効いた体重移動が可能になる。
もちろんR18がタイトなコーナリングを苦手としていることに変わりはないが、
乗り方次第で操る楽しさを引き出すことができた。
それはハンドル形状の問題なのではなく、低重心のボクサーエンジンをはじめとしたそもそも持たされた素性の良さにある。
あからさまな直線番長であっても、乗り手に合った調整を施すことができれば遊びの幅が想像以上に広くなるところはさすがBMW。面目躍如だ。
多くの方が黒菱駐車場に車を置いて八方池山荘方面にトレッキングに向かうのだそうだ。
私が着いた昼頃に下山してくる方々が大勢いた。
そのため朝から駐車場は満車になっているようだ。
ここからリフトに乗れば大パノラマを見られるのですが、冬に何度も見てるし、
何より第3リフトだけで往復¥1,000と聞いて止めた。
っていうか、私の目的はむしろ来た道を冬と同様、下っていくことにある。
黒菱ゲレンデを右に左につづら折れて走るあの林道コースをオートバイで走れるなんて。
スノーボードの時は「斜度が足りね〜〜」
とか斜面のせいにして滑っていた箇所も、
オートバイで走るとまあまあ斜度があって驚いた。
もっときちんと滑走ワックスをかけて滑るようにせんといかんな。
やっぱりスキー場に夏に来るのは楽しい。
もちろん高原なのでとても涼しい。
暑い下界に下りたくなくなる。
白と緑の違いを除けば、やっぱり見慣れたあの斜面が広がる。
なんだか懐かしくも新鮮な感じ。
私の場合、オートバイの旅は走ることが目的なので事実上「目的地」は「道」だ。
引き返し地点があるだけの単純な旅に出る理由にこういった景色は持って来い。
帰りは下道で軽井沢に寄ってから帰った。
結局雨には遭わずに済んだ。
途中で夕飯食って、家に着いたのは20時。
ほぼ12時間走らせていたことになる。
12時間ただただその鼓動を全身に浴び続ける悦び。
これまではレーサーレプリカに乗ってワインディング・ロードを目指したり、
エンデューロバイクで林道を目指したり、
オートバイでスポーツすることが旅の目的であった。
ただただエンジンを愛でるための旅に興味を持つようになったのは、
単に年をとったというだけなのですが、
我ながら良い年の取り方をしてるなあとR18に跨がって実感することができた。
バーチャルが幅を利かすこのご時世に、
滅法リアルで、アナログな快感の価値は計り知れないものだと思う。
そうした時代錯誤的にアナログな悦びを最新の技術で生み出そうとするBMWの「感性」と「機能」の両立のさせ方が私はやっぱり好きだ。
BMW R18。
こりゃとんでもない「器」だ。
またすぐにでも走りに出かけたい。
これからこいつと征く道が楽しみでならない。
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