ストリップダンサーとして働くアニー(アノーラ)の風俗店に、ある日ロシアから来た富豪の御曹司イヴァンが来店する。
気が合った二人が店外デート〜2週間の専属契約、というのは『プリティ・ウーマン』を彷彿とさせる流れだが、リアリティという意味での過激ともとれるセックスシーンなど、“場末”の描かれ方はかなりリアルで、多くのセックスワーカーたちの真実の姿を垣間見せる舞台背景の説得力はかなり高い。
そして専属契約を結んだ2週間の間に、ノリだけ(とはいえ自家用ジェット)で訪れたラス・ベガスで、酒とドラッグに酔った勢いでドライブスルー・チャペルで結婚してしまうところから、プリティ・ウーマンとはまったく別の物語へ進展していく。
2025年アカデミー賞で、ショーン・ベイカー監督は、作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞で、4冠を達成。個人として初めて、1作品で4部門のアカデミー賞を受賞した人物となり、主演のマイキー・マディソンが今作で主演女優賞を獲得したのには、もちろんワケがある。
もちろんそのワケを、ネタバレせずにここに書くには、私の語彙力はかなり頼りないので、ぜひご自身の目で確かめていただきたい。のではありますが、そう切り捨てるわけにもいかないので、もう少し書いておくと、とにかく切なくて、それでいて勇気をもらえる作品なのであります。とはいえ、婿殿の家がロシアンマフィアで、酷い暴力の果てに薬漬けにされるようなダークな展開はない。基本的にプリティ・ウーマン的なコメディタッチ。
この結婚を成就させたいアニーと、ひたすらに母親から逃げるイヴァン、いっときの気の迷いと決めつけて結婚を破棄させようとするイヴァンの親、ちょっと間抜けで根は優しい人々の間で巻き起こる、上へ下への大騒動を楽しく見守れば良いのですが、もちろんそれだけでアカデミー賞6部門にノミネートされたりしない。

主人公がセックスワーカーであること、結婚した相手が桁違いの大富豪であることが、この物語を奇想天外なものに見せているが、そうした強烈な物語の下敷きがあるからこそ、大都市ニューヨークの片隅で、逞しく生きていく一人の少女の真の姿が、余計に強く浮き彫りになっている。
恋に恋する純粋さはまだ持ち合わせているが、本当の恋など自分には無縁だと諦めているし、もちろん他人を推し量る眼力などあるはずもない。
そんな少女がはじめて、自分の力だけではどうにもできない事態にぶち当たること、恋すること、他人を信じること、他人に自身の幸せを依存することについて、残酷でいて時に甘い真実を知っていく成長の過程が描き出されていく。
ラストシーンについて、賛否の分かれる描かれ方だと思うが、不器用な彼女の、精一杯の運命への抵抗と、再生への新たな覚醒を観る者に伝えているのだと私は思う。
登場人物としてだけでなく、キャストたち自身のファンにもなってしまった。
録画しておいたアカデミー賞授賞式も観直してしまいました。
とても良い映画です。
(オススメ度:80)
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