ポール・トーマス・アンダーソン監督作品。よいうよりもレオナルド・ディカプリオ主演最新作。と言ったほいがしっくりくる、アンダーソン監督にしてはかなり分かりやすく大衆向きにエンタメ化された一作。
とはいえそこはポール・トーマス・アンダーソン。
捻りにヒネった脚本には「なぜいま劇場で映画を観る必要があるのか」の問いに対して、誰もが正しくその答えを持つことができるだろう。

どういった経緯でディカプリオが出演することになったのかは分からないが、山のように出演オファーが届くディカプリオが選ぶ脚本だ。ギャラではなく、彼の演じたい役であることが大前提だったはず。
『レヴェナント』や、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のような、重厚でシリアスな作品ではなく、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のような、一癖も二癖もある登場人物たちが割拠するアクの強い喜劇を選んだことをまず考えれば、今作の観方が変わってくると思う。

ディカプリオは確かに主演なのですが、どこか脇役のような存在感に、あえて“抑えられている”。
それでも最後は間違いなく彼の作品だと感じさせるのは、「無軌道で破天荒なカノジョに困らされるカレシ」、「爆発物のプロフェッショナルである革命家」、「唐突に娘の親となってしまった男」、「大切な娘を誘拐されてしまった父親」、「過去の亡霊に追われる逃亡者」といった、場面ごとに肩書きの変わるパニック寸前の男の生き様を、決して目立たずにどこか控えめに演じ切っていることの凄みを感じさせてくれるからだと思う。
それも何も、アンダーソン監督の描く群像劇のピースになることが、この作品に一つの命を与えることにつながると、ディカプリオ自身が一番に理解しているからであろう。

そうした作品性の中で、新人らしい強い輝きでもって、革命家の娘役を演じたチェイス・インフィニティの存在感の方が何倍も強い印象を残している。
「One Battle After Another」とは、「戦いに次ぐ戦い」といったところなのですが、戦うこと、抵抗すること、目に見えるものを疑うことの意思や希望の連鎖、連関のことも表わしている。
突然降りかかった最悪の窮地の中で、一見安定して見える周りの世界が、実は大きく歪んでいることに気づく一人の少女の「気づき」と「決意」の瞬間を刮目して欲しい。
(オススメ度:80)
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