「公」と「私」を、一人の人間の中で分離するという実験的な“働き方改革”が実践されている世界。
製薬会社であるルーモン産業の社内だけの記憶を持つ「インニィ」と、オフィスを一歩でも出たら現れる「アウティ」を一つの脳内で生成する技術。
私は便宜上それを“働き方改革”と呼んだが、私には仕事のストレスを家庭に持ち込まないこと以外に、この技術のメリットが思い浮かばない。
そして、劇中でもその目的や理由に関しては一切語られることはなく、不穏な空気感を助長するだけ助長しておいてそのまま放置する演出はまさに、あの大ヒットドラマ『LOST』と同一線上。

そして、LOST同様にこの技術の確立を目指しているルーモン産業には、その背後には何やら陰謀めいたものが見え隠れしているのだが、もちろんその素性は一切明かされることはない。
こういったサスペンスシリーズの専売特許でもあるのですが、この『セヴェランス』の面白いところは、観ているこちらが、そうした散りばめられた謎に対して、あえて興味を失わせるようなことばかりを仕掛けてくる所にある。

インニィたちはルーモン社内にしかいられないのかと思ったら、課外研修という名目で林間学校のような研修を受けたりもする。
物語の大きな流れとはほとんど無関係だったりするので、研修の模様など観るに足らないと思ってしまうのですが、こちらが飽きてきたタイミングで、実はこの中の一人がアウティのままインニィに化けて混ざっていることが知らされる・・・といった具合に、興味を失わせておいて、気の置けないような仕掛けを張り巡らせてくるので片時も目が離せないというややこしい構造になっている。

主人公のマークSのアウティである、マーク・スカウトの死んだはずの妻、ジェマがまだ生きていて、ルーモン社内のどこかに幽閉されており、もちろんルーモン社内で身動きができるのはマーク・スカウトのインニィであるマークSしかいない。
妻の生存の可能性を知ったマーク・スカウトは、自身の脳内にだけ存在するマークSの協力を仰ぐ他なく、自分の頭に穴を開けてアウティの記憶とインニィの記憶とを「統合する」施術を施すことを決める。
ただ、ジェマが死を偽装された理由も、社内で何をさせられているのかについても明確な説明はほとんどない。っていうか、あの説明で分かった人なんているんですか???
たぶんと言うか、間違いなく、最終話を迎えても論理的な説明は一切されないと思うし、たぶん無理だ。
そもそも脚本家自身が論理的な事実と結末に執着していないようにすら見受けられる。
正直、観ていて辛くなってくることもしばしばで、謎に対しての興味を削ぐくせに、目が離せないような仕掛けだけは用意周到に散りばめられている。妙な中毒性のある“ツンデレドラマ”だ。
シーズン3の製作も決定しているようですが、これ以上付き合わされるのはもう御免なので、とにかく次のシリーズで完結させてくれと願う他ない。
なのに、早く続きが観たくなってしまう。というように観る者の心を「分離」することがこのドラマシリーズの真の目的なのかもしれない。
(オススメ度:60)
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