R18の2年目点検と、リバースユニットのリコール作業は日中いっぱいかかるとのことで、今回も代車を出していただいたのですが、前回もお借りした『C400GT』の予定が、急な別件で出払ってしまっていたため「試乗車の中からお好きな一台をドーゾ」となった。
真っ先に『R1300 GS Adventure』が目に飛び込んできたのですが、すでに『R1300GS』には乗っているので、ここはグッと堪えて、どう考えても一番に乗っておかないとならない『R12 NineT』をお借りすることにした。

やっぱり軽い!
私がR18に乗っているから。というのももちろんありますが、それを横に置いてもやっぱり軽い。
右に左にヒラヒラと旋回する様子がとても小気味いい。
それでいてスポーティという名の軽薄さはなく、しっかりとしたロードコンタクトを伝えて来ていて、とても頼もしい安定感を伴っている。
そうした車体構成を最大限に活かすべくセッティングされた1,200ccのボクサーツインの扱いやすさは特筆に値する。エンジンの扱いやすさは無個性につながると想像されるあなたはかなりのオートバイ好き。
でも安心していただきたい。水平対抗エンジンらしい鼓動感の演出にも手抜かりはない。
エンジンだけで白米をおかわりできる美味しさ。そしてそれはトルクデリバリーの秀逸さを伴っており、趣味と実益を見事に兼ね備えていて、そうした抜け目のないところがとってもステキ。
何より、そうした車体とエンジンの連携は、パッと乗った瞬間にすでに1,000kmくらい共にしたあとのような間柄になれるほどの寛容さを持っている。

それはもう中型免許の教習車のよう。
つまり、乗り味はほとんどCB400ってことなのですが、もちろん大型車らしいダイナミックさを併せ持っていてチープなところなどまったくない。
大型車を中免の教習車のような乗りやすさで扱えてしまう、R12 NineTはほとんど夢のようなモーターサイクルだ。

BMW Motorradのド真ん中はどのモデルか?
と問われれば、私なら迷いなく『R1300GS』だと答える。
なぜならBMWのもつすべてが、余すことなく詰め込まれているのがR1300GSだからだ。
とはいえそれは世界のマーケットがGSを望んでいるからであって、保守本流ということとは違う。
何よりアドベンチャーモデルを教習車に使っている教習所など(たぶん)ない。
オートバイの王道はやはりフツーのロードモデルだ。
R1300GSがどれだけ素晴らしいと言っても、それは「アドベンチャーモデルをあれだけ乗りやすくしている」ということであって、本当の意味での乗りやすさ、扱いやすさとは違う。
跨った瞬間、否応なしに体に馴染むようなフィット感。
その感覚を裏切らないアクセラレーションの反応と加速。
加速時であっても減速時であっても、車体は安定性を維持して、操作を誤るような揺さぶられ方は絶対にしない。
そうした操縦安定性によって片道300kmをペロリとこなす懐の深さ。
あえて扱いの難しいオートバイを乗りこなすことに生き甲斐を感じるのならおすすめはしないが、逆に、初めて乗ったその日から最高の相棒になってくれるBMWを探しているのであれば、R12 NineTは間違いのないベストな選択だ。
R12 NineTに乗ってみれば、アドベンチャーモデルも、レーサーレプリカも、クルーザーも、あえて王道をハズしたスキモノの道だと理解できるだろう。
「都会でも山岳路でも、砂漠でも。道なき道でも走り抜けたい」、「グランプリレーサーさながらに膝を擦って走りたい」、「大荷物を積んで大陸横断の旅に出たい」など、本来的なオートバイの走りを楽しむ道を踏み外す理由は人それぞれ。分かりやすい王道をあえてハズしたい気持ちもよく分かる。
それが趣味世界というものだと私も思う。
でも、そうした目的のためにはサスストロークの長い足回りや高いシート高。硬い足回りに深い前傾姿勢。直進安定性のための重量や長いホイールベースなど、趣味のモーターサイクルがとても乗りづらく感じてしまい、それが理由で乗らなくなってしまっては元も子もない。
オートバイとの時間をより豊かで有意義なものにしたいとお考えの方に、まずR12 NineTのようなオートバイをお勧めしたい。
念のため言っておくがR12 NineTは初心者用などでは決してない。
R12 NineTは酸いも甘いも嚙み分ける、真の伊達者でなければ味わい尽くせない、文字通りの高級車、高品質車だ。
車体の仕上げのレベルは国産車ではなし得ない、とりも直さずのBMWクオリティ。
自分だけの一台に仕立てるカスタマイズの楽しみも豊富。
まさに乗ってヨシ、眺めてヨシ、イジってヨシの三方ヨシの典型のようなオートバイだ。
中でもカスタマイズの可能性は、飽きが来ないため長く付き合えることと同義。
R12 NineTの素直な乗り味だけをあげつらって「つまらない」とか言う人がいたならその人は贋者だ。
オートバイに限らず、道具というのは「器」でしかない。
つまり、乗る人の中にある、魂や精神、技術などの分量によって、器は余ったり、溢れたりする。
R12 nineTからそれが溢れてしまう人などそうはいない。
これがつまらないのなら自身の中身が薄っぺらいのだと悟った方が賢明だ。
ただし、好き嫌いというのはある。
そして間違いなく、R12 NineTの世界観を好む人は“良質な人”だ。
こういうモーターサイクルに好んで乗れる人間に、私はなりたかった。
と、極度のへそ曲がりの私は思う。

さておき、これで同じエンジンを積む『R12 G/S』が余計に気になりだしてしまった。
画像はUNIT GARAGEが発表した「パリダカ仕様キット」を装着したモデル。
もちろん私にR18と2台持ちする甲斐性などあるはずもないが、これはガチに目の毒だ・・・
コメント
コメント一覧 (1件)
今回も楽しく読ませて頂きました。
初めてのBMWですが最初にカタログスペックで車両重量を見た時はちょっと重たそうなイメージでしたが、実際に乗ると重心が低いせいか取り回しも含めあまり重さは感じないんですよね。そして安定感。うまく言えませんがコーナリング中は車体が路面に引き寄せられながらトレースして曲がっているような印象です。まだまだ距離は伸びませんがようやくエンジンの味や車体の動き方が自身に馴染んできた気がします。…しかしR12GSは気になるしトライアンフの400XCとかにも目移りしがちな今日この頃です。