哀れなるものたち

女王陛下のお気に入り』、『聖なる鹿殺し』、『ロブスター』の鬼才、ヨルゴス・ランティモス監督作品『哀れなるものたち』をやっと観ることができた。
ヨルゴス・ランティモス監督の作品は、どれも奇想天外な喜劇ともとれるし、常に観る者に考えさせる哲学的な作品ともとれる。
彼が描き出す物語はいつもシンプル。分かりやすく残酷で、分かりやすく幸せな物語ばかりなのですが、シュールという一言で片付けられるような、薄っぺらいものでは決してない。
観る者に訴えかけてくるものは謎解きの如き複雑さで、それは難解さという意味ではなく、解くべきパズルの全容をまず先に観る者に見つけさせるところに特徴がある。

身体は大人で、知能はまだ幼児。
ただそれは知識障害などではなく、単純に成長過程。
多くの男性を魅了する美しい姿を持った幼児を、たった一人で下界に放ったら、どんな成長を遂げるのか。
マッドサイエンティストが夢想した壮大で愚かな公開実験を、観客として目の当たりにする。
この映画の核となる部分はそれだけだ。

そして、一般論や、理性的、生理的に忌み嫌われる行為を理解できない幼児が、そうした反社会的な行為を通して、人間という存在、社会という大いなる矛盾を理解していく様は、まさにその一般論の真偽について、観る者に考えさせる絶好の機会を与えてくれる。

ただ、それはあくまでも私がヨルゴス・ランティモスから与えられたパズルであって、観る人によっては別のパズルを受け取るかもしれない。

原題は『Poor Things』。
直訳すると「かわいそうに」という意味。
「哀れなるものたち」と解釈した経緯は計りかねるが、かいそうなのも、哀れなのも、身体は大人で知能が幼児のベラのことではなく、ベラから見た周りの大人たちのことだ。

(オススメ度:80)

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