『Pure』、『Classic』、『B』、『Transcontinental』につづくR18 第5のモデル『Roctane』を試乗させていただいた。
R18をアメリカンクルーザーだと思われている方も多いと思うが、それは違う。
まあ、人ぞれぞれ受け取り方は千差万別なので、私が勝手に「違う」と断定するのもなんですが、R18を愛車として嗜む者として、ここは一応言っておきたい。「そうではない」と。
じゃあ何なんだ。と申されましてもR18を的確に言い表すカテゴリーや名称はないのですが、ハーレーとは似て非なるものであると、まともにハーレーに乗ったこともないくせに、あえて断言しておきたいと思います。
と、そんなことをBMWの開発陣が思ったどうかは知りませんが、このRoctane(ロクテイン)は、意匠にもアメリカン勢とは一線を画す独自性が盛り込まれている。
Roctaneのデザインを「ストリームライニング」と評するムキもあるようですが、私はその意味を知らないので、ここでそれについて語ることができない。
なので、例によって私なりの勝手な解釈を述べさせていただく。
私はRoctaneに第2次世界大戦頃のドイツ製モーターサイクルのイメージを感じずにいられない。
もちろんドイツ人にとって黒歴史と言って良い時代の産物なので、大きな声で「そうだ」とは認めないだろう。
でもプロダクトとしても「悪」だったかと言えば、そうではないはずだ。
質実剛健を旨とするジャーマン・プロダクツにあって、サバイバルの極致と言っていいミリタリースペックとはある意味で究極的な存在だと私は思う。
もちろんRoctaneは軍用車両ではないので、あくまでもデザインテイストの話。
ジャーマン・デザインにおけるクルーザーの解釈について、はじめて定義されたモデルだと私は思う。
何が言いたいのかというと、私はRoctaneをデザインスタディとして見ている。と、そういうことだ。
私の『Design Package Black』は、シリンダーヘッドカバー、エンジンのフロントカバーなどがブラックで統一された最初のモデルですが、このRoctaneはヘッドライトリム、ハンドルブラケット、フロントフォークトップなど、私のPureではメッキだった箇所も徹底的にブラック化が施されている。素直に羨ましい。
加えて、メーター一体式のヘッドライトケースや、画像では分かりづらいと思うが、ブラッククロームが施されたエキパイなど、目を見張るディテールが散りばめられている。
ハンドルバーも最初からブラック化されているところは羨ましいし、実際に乗ってみたポジションも決して悪くないのですが、びよ〜〜んと跳ね上げられたハンドルの見た目はいかがなものかと私は思う。
エンジンサウンドも排気音を中心にだいぶ味付けが変わっていて、Roctaneはドルドルドル〜と、まあまあ腹に来る太い音を響かせる。
慣れの問題だとは思うが、私は愛車のAkrapovičの奏でる抑えめで硬質な音色の方が好み。
Roctaneのディテールに見るべき部分は多々あるが、一歩下がって全体像として捉えたときにこのデザインに惹かれることはなかった。
実際に乗ってみるまでは・・・
そんなRoctaneに試乗したいと思ったのは、もちろんR18なら何でもかんでも乗っておきたいという物見遊山な思いもないではないが、どうしても試しておきたいディテールがあった。
それは、フロント21インチホイール。
R18の独特な乗り味を決定づけているのは、間違いなく大きすぎるフロント荷重。
はっきり言って、R18は、“1,800cc OHVボクサーツインエンジン”のためだけに存在するようなオートバイだ。
巨大なエンジンにオマケのように付与されたシャシーを含む補機類によって、まるでエンジンに跨がって操作するかのような意匠を目指していることは、見て触れてみればすぐに分かる。
BMWともあろう者がなぜ、私でも分かるような悪癖を放置しているのか?
それは、デザインを優先したが故の結末だと私は考えている。
実際、「B」や「Transcontinental」といった大型のフロントカウルを装備するモデルでは、ステアリング・ステムの位置が、上へ向かってエンジンから離れる方向に移動され、それはキャスターアングルを立てるための措置だと思われる。
Pureと較べて、ろくろ首状に延ばされたステムがカウルの内側に覗け、前後バランスを適正化していることが垣間見える。間違いなくこれが最適解なのですが、カウルなしのPureにこのフレームを移植した姿を想像するに、あまりにカッコ悪い。
つまり、とんでもないヤセ我慢。オシャレは我慢を地でいく意匠なのであります。
その暴力的なコンセプトを達成するために、前後バランスはかなり犠牲になっている。
要は前荷重がデカ過ぎるのである。
リアにパーツが増やされ、リア荷重が増しているモデルでは穏やかになるのですが、素のモデルであるPureは、前荷重過多の影響がモロに出ており、フロントが重すぎることでプッシュアンダーを含めたハンドリングの悪癖を生み出している。
ステム位置を変えずにそれらを修正する一番の近道はフロントの車高を上げて荷重をリアに配分して前後の荷重バランスを適正化すること。それはつまりフロントフォークを伸ばすことになるのですが、残念ながら私にはフロントフォークを伸ばす術はない。何か手はないものかと、あれこれと考えていたところ、Roctaneはその難問に対し、21インチホイールを採用してきた。
Pureのリアは16インチで、Roctaneは約17インチですが、180/65-16と180/55-16.8なので外径に差はなく、リア側のホイールサイズの違いによる車高の差はないものと思われ、21インチ化によってフロント荷重が軽減されているものと推察される。
上の画像を見較べていただければ、Roctaneの最低地上高が上げられていることが分かると思う。
そうした仮説を持って試乗してみたわけですが、結論としては、
Roctaneのハンドリングは、私の理想に近いものでありました。
フロントが突っ張るような挙動を見せ、なかなか倒れていかないPureと違い、Roctaneはフロントタイヤのターンアングルをきれいに使い切るような自然な倒し込みが開始された。
最初の曲がり角で、いつもの通りにリーンさせたら、一気にステップが設置するフルバンクまで行ってしまい少々面食らうほどリーンが軽い。
R18のリーンの頑固さを10としたときに、Roctaneは「2」くらいの軽さしか感じない。
これまではTranscontinentalのハンドリングが一番だと思ってきたが、そのTranscontinentalでも「6」程度。
Pureでアスファルトのひび割れや、轍(わだち)に遭遇すると、急激にハンドルを取られ、かなり肝を冷やす。
これはハンドリングを云々する以前の安全性に関するかなり重大な問題だ。
だが、Roctaneはそうした路面状況に差しかかっても、まるでどこ吹く風で、路面に縦に掘れた段差を何事もなかったかのようにいなしていく。
もっともそれは、私が路側帯を使ってすり抜けを繰り返しているからこそ出会う状況なので、R18をR18らしく扱うぶんには早々出会わないシチュエーションであることは申し伝えておく。
話は逸れるが、R18の巨大なボクサーエンジンを指さして、「シリンダーがこれだけ横に出っ張っていると、すり抜けなんてできないですね」と、良く声をかけられる。
一応申し上げておくと、R18とはいえハンドルバーの横幅をシリンダーが超えていないので、ハンドルの左右幅が抜けられる場所ならすり抜けができます。
そして、ハンドルの左右幅というのは車種が変わっても早々変わるものではない。
それと、言ったようにR18は超のつく低重心なので、極低速走行でも安定感が失われない。
なんなら軽量で薄っぺらいHP2 Enduroより、よっぽどすり抜けはしやすい。
話しをRoctaneに戻そう。
ターン後半にリアに荷重を移動させる挙動も分かりやすく、自然とリアステアに持ち込むことができ、アクセルオンに対するリアタイヤの潰れ具合も手に取るように感じられコーナリング全体への安心感も高い。
この巨躯を右に左に揺さぶりながら、つづら折りの道を駆け抜けるのが楽しくて仕方がない。
といった具合にRoctaneは、ことハンドリングに関しては、「更新」の域を超えて、これまでのモデルを「凌駕」してしまっている。
「いたって普通」のハンドリングで「凌駕」というのもおかしな話しだが、それくらいにR18のハンドリングは摩訶不思議な出来映えになっている。
私はこの「いたって普通」を目指しあーでもないこーでもないと愛車に手と資金を加えている。
それをこうも軽やかにニューモデルで達成されるとかなり凹む。
はじめてR18に乗るなら、間違いなくRoctaneをオススメする。
一般的なモデルから乗り換えても、きっと何の違和感もなく乗ることができると思う。
とか思うのは私がPureを所有しているからだろうか。
もしもPureよりも先にRoctaneに乗っていたら「何だこのオートバイは?」と幻滅していたかもしれないことは一応申し伝えておく。
言ったようにRoctaneのデザインはあまり好きではないのですが、デザイン的な課題点に目をつぶらせるほどにRoctaneのハンドリングには説得力がある。
もちろん、私の気持ちをこれほどまでにR18に傾かせたのは、Bobberモデルだったからこそ。
最初からRoctaneを買うことはまずなかっただろう。
と、前置きが長くなったが、今回私が言いたいことはそこではない。
ポイントはBMW純正オプションにはフロント21/リア18インチのホイールが設定されていることだ。
つまり、私のPureも21インチ化できるということ。ちなみに、フロント21/リア16インチのキャストホイールのセットも選べる。もちろん、私のPureのフロントホイールを21インチ化したとしても、Roctaneのハンドリングになるほど、モノゴトは甘くはないコトくらい理解しているが、それでも試してみる価値は大いにあると感じている。
前後セットで¥584,166というF:21/R:18インチホイールセットのお値段はさておいても、R18にスポークホイールは必須だと考えている私としては、このキャストホイールに食指を動かされることはないのですが、リアホイールを換えずに済む21インチの純正スポークホイールの登場に期待しない理由はない。
ただフロント21インチのスポークホイールを純正仕様とするモデルが追加されない限り、それがオプション設定される可能性は低いのだろうとも思うし、2024年モデルのPureもキャストホイールが標準化されたようなので、これ以降にスポークホイールを装着されたモデルが登場するとも思えない。つまり、無駄遣いは未然に防がれた。
なんてことをツラツラと考えていて、自分でも一番おっかないと感じるのは、2024モデルからPureのホイールがサイズは変わらず19インチながら、スポークからキャストに変更になったこと。
意外とキャストホールも悪くない????ってことは???
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