『MOSS Q57』に乗る度に「良いボードだな〜〜」と思う。
パウダースノー、グルーミングバーン、3D地形を問わずに“淀みのない”スムースでコントローラブルな滑りがでてしまう。それが私にとっての「Q」だ。
ただ、言っておきたいのは、スムースなことと“イージー”なことは違う。
ディレクショナルボードであることからはじまり、ファットボードであること、サイドカーブにあまり抑揚がないこと、フラットキャンバーであることなど、操作に際してはそれなりのクセがある。
それらに対して免疫のある人のためのボードであることは知っておく必要がある。
そうした構造の組合わせは、そもそも深雪を滑るために生み出された「パウダーボード」なるものの登場からはじまったように思う。
そこから新たな遊び方が次々に考案され、新雪斜面だけでなく、圧雪バーンも気持ち良く滑れるボード、立体地形を気持ち良く滑れるボードなど、パウダーボードというカテゴリーからはみ出した新たなジャンルが確立されたのだと思っている。
そこに至るレシピと、順列組合せの可能性はそれこそ無数にあって、すべての乗り手の要望を完全に満たす完璧なボードなど存在しない。
10人いたら10通りのラインがそこにはあって、自分のラインを見つけるのは本当に難しい。
だからこそ、一人のスノーボーダーとして、その中から「これだ」と思える1本に出会えること以上に、幸せなことは、少なくとも私には、ない。
Q57に対する思いは以前の記事をお読みいただきたい。
かいつまんで言うとそれは “TTとの相似性” にある。
直線的なサイドカーブと、フラットキャンバーの組合わせに、単に私が “TTの亡霊” を見ているだけなのかもしれないのだけれど、私にとって孤高の存在であるTTの滑りをコンビニエントにしているところに、もの凄い可能性を感じずにはいられない。
見較べるまでもなく、TTよりも数倍ファットにされていることによって、ボードをより立てることができ、つま先、かかとから少し離れたところにエッジが来ることで、テコの原理の作用が増加され、より強い荷重を半自動的に架けることができることが、圧雪斜面を“コンビニエント”にしている。
そして、フラットキャンバーが3D地形でのフリーライド操作をよりしやすくしている。
そうしたQ57の特性を継承しつつ、更に機能レンジを広げたボード、よりコンビニエントにしたボードがQ545であると思っている。
繰り返すが、コンビニエントとイージーもまた違う。
トーゼン、Q545に対してもそれなりの“構え”が必要になることは言っておきたい。
Q545は、Q57のもつ無類の安定感と、加速性能、クイックなターン性能という背反するものを、高次元でバランスさせているところから、若干の安定感を抜いた「深雪性能」を持ちながら、より豊かになったサイドカーブによる「圧雪ターンのキレ味」は2割増しで底上げされている。
何より私が感銘を受けたのは「3D地形でのヌケの良さ」で、壁の中での低抵抗でいて明確なエッジワークは、Q57を含む私の知るスノーボードたちの一段階上にある。
特に、キレのある小回りの効いたボトムターンから、壁をよじ登り、リップでターンさせる一連の流れが、レギュラーでもグーフィーでもスムースに行えるところが堪らない。
Q57だと、曲がりはじめるのを待つ一拍の「間」がある。
それは舵を利かせるエッジカーブを掴むのに若干のタイムラグの存在を意味する。
誤解のないように言っておくと、Q57はそのあたりの反応が明瞭な方だ。
だからこそ安心して楽しめる「間」のあるところが大好きだ。
対して、Q545はサイドカーブのどこからでも即座に反応を開始する。
常にサイドカーブのどこかがコンタクトしている様子が明瞭に伝わって来て、どのポジションからでも、平地でも立体地形でも、加速、停滞、ターンのいずれの操作もすぐにはじめることができる。
そうした性格を「クイック」と捉えるのか、「忙しない」と感じるのか、はたまたこれでもまだ「遅い」と感じるのかは人それぞれだと思うが、少なくともQ57オーナーにとっては「適度なクイックネス」と感じるものだと思う。
そしてそのクイックネスの中毒性はとても高く、Q57の「間」の楽しみ方を思い出すのに、少々時間がかかっている自分に気づく。
というように、Q545は間違いなくQ57の進化形なのですが、だからと言ってQ57の完成型でもないところが面白い。
「この2本のどちらを薦めるのか?」と問われれば、私は「2本とも所有して」と答える。
それはGentemstickのそれぞれのシリーズが、棲み分けるのではなく補完し合うようにラインナップされている様子に似ているが、それはTTシリーズの中での補完関係ではなく、たとえばTTとMANTARAYとの関係性における補完を意味する。
そして、Gentemstickが細分化しつつ完成させようとしている滑りの本質を、1本で完結させようとする、とてつもない意欲作であることも申し伝えておきたい。
コメント