関心領域

まずはこちらの動画を見ていただきたい。
この予告編の中にこの映画が製作された、その目的のほぼ全てが語られている。

アウシュビッツ強制収容所について、もはや説明は不要だろう。

ただ、少なくとも私は、反ユダヤ主義やホロコーストを対岸の問題、歴史の問題として片付けてしまっていた。
ガザ地区で行われていたことや、ウクライナ侵攻についてもそうだが、もっと身近な場所で起こっている問題に関しても、私が他人事で片付けてしまっていることに、この映画を見て痛感させられることとなった。

この極めて文学的でキャッチーな「関心領域」という題名。
この映画のために作られたタイトルなのかと思ったら違った。
ナチス親衛隊は、アウシュビッツ強制収容所を取り囲む40平方キロメートルの地域を『関心領域(The Zone of Interestドイツ語で「Interessengebiet」)』と表現していたのだそうだ。
なぜそう呼ばれていたのかについては分からないのだが、扇動やプロパガンダに長けたナチスドイツの、国民を啓蒙するための一環としてのネーミング、「反ユダヤ主義への関心を高めるための領域」であると捉えると、猛烈な吐き気を覚えるのは私だけではないだろう。

自身の仕事、役割に誇りを持つ夫。
「17歳の頃からの夢の暮らしを手に入れた」と心から語る妻。
自然豊かな環境で何不自由なく暮らす子供たち。
そんな娘家族の姿に多幸感を感じている祖母。
そこには平和で幸せな家族の姿があり、上映時間のほとんどが、そんな裕福な幸せの情景に溢れている。
そうした何の変哲もない光景をただただ観させられるのですが、これを観る誰しもがこの楽園のすぐ横にある塀を隔てたそのすぐ先で、毎日数千人、のちに数万人規模で、人間が生きたまま焼かれていた事実と向き合わずにはいられなくなる。
そのあまりのギャップに、観る者全ての思考経路がパニックに陥れられるだろう。

果たしてその家族が塀の内側で行われていた事実を知っていたのか。
史実としてもその答えは残っていないらしい。

ただ映画の中では、幸せな家族の姿の背景に、銃声や奇声が届いていたことが描かれていた。
もちろん私の耳にもガザやウクライナの状況は届いている。
某国に大切な人を拉致された家族のことだって知っている。
岩手の山林火災の状況もテレビ越しに見ている。
そうした光景を想像しても尚、自分のことにだけに意識をフォーカスできてしまう残酷性が、人間には備わっていることを、この映画は糾弾している。

分かった上で私にできることは極めて少ないが、せめて目を逸らさないことの重要性を、忘れないようにしたい。

(オススメ度:90)

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