マテリアリスト 結婚の条件

パストライブス』のセリーヌ・ソン監督最新作『マテリアリスト』。

『パストライブス』では数十年に渡る男女の、運命と言っていいほどのすれ違いを綴りましたが、今回は目の前の瞬間を生きる現代社会の恋愛事情が題材。
行間を大切にするような沁みる映像作品となっていた『パストライブス』に対し、『マテリアリスト』は明るくコミカルな脚色が施されている。
そんな両極端と言ってもいい2作に共通するのは、舞台がニューヨークだということと、純粋だからこそ残酷さも増して降りかかってくる現実社会を、とてもシニカルな視点で描いているところ。

恋愛の出会いとは違い、結婚を前提に出会う男女には、さまざまな条件や要望が立ちはだかる。
そんな男女間の条件交渉を一手に担うマッチメーカー“仲介人”を仕事にするルーシー。
自身が結びつけたカップルの結婚式で、超リッチな金融ブローカーであるハリーと出会う。
そして、その会場でたまたまウェイターのアルバイトをしていた元カレのジョンと再会する。

大金持ちでルックスも最高なハリーと、いまも俳優志望のままアルバイトで生計を立てているジョン。

マッチメーカーとしての視点と、現実を超える愛情という非現実的なものの存在を諦めきれない自分自身との狭間の中で、本当の“人生の条件”を見つけていくルーシー。

といったロマンチックな展開の背景として、あまりにも現実的で、だからこそ辛辣で滑稽なニューヨークに住む男女の結婚の条件が並べ立てられていく。
ただ、彼らの結婚相手に求める条件を観てもあまり笑えないのは、口には出さないが誰もが同じような考えや思いを心の奥底に秘めていることを、観ているこちら側にも突きつけてくるから。
そして、そう望むと同時に、そんな自分を卑下していることも。

ロバート・レッドフォード、デミ・ムーア主演の『幸福の条件 (1993)』では、借金苦の若い夫婦が、一攫千金を狙ってカジノに行って全財産を失ってしまうが、そこに居合わせた大富豪の男に「100万ドルで彼女と一夜を共にしたい」というゲームのようなオファーを受ける。
「彼女を大切に思えばそんなこと許せるわけがない」「私が我慢すれば、あれだけ苦しまされた借金を帳消しにできる」「その一線を越えたらもう後戻りはできない」・・・
その申し出に悩んでしまう時点で、その若い夫婦の辿り着く先がどうなるのか見えていたのは、その大富豪だけだった・・・大富豪は単に夫婦を弄ぶ目的だったのか・・・それとも本当にその女性を見初めてしまったのか・・・
果たしてその夫婦は、愛をとるのか、金をとるのか・・・大富豪の真意とは・・・

『マテリアリスト』は『幸福の条件』よりも、もっとカジュアルでロマンチックな作品ですが、描こうとしている核心部はかなり似ている。

以降の文章はちょっとネタバレになるので、これから映画を観る方は読まない方がいいかもしれません。

エンディングロールで流れるのは、リトル・ビッグ・リーグのミシェル・ザウナーによるソロ・プロジェクト「ジャパニーズ・ブレックファスト」の『My Baby (Got Nothing At All)』

When your lover’s got funds depleted
Only company baby’s got is mine
And that’s sure something

という歌詞の一節を、

もしもカレが破産したら、
カレには私しか残らない。
それって最高じゃない?

と意訳していた。素晴らしい翻訳だと思った。
調べたら日本語字幕を担当したのは、映画批評家としても活躍される伊藤美和さんという方だった。
伊藤美和さんが字幕を担当する作品をまた観たいと思いました。

(オススメ度:70)

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