マーティー・シュープリーム

最高のスケールで描くスペースオペラ『DUNE 砂の惑星』、『DUNE Part Two』、ボブ・ディランの半生を描いた『名もなき者』と、大作映画の主演を務め、『君の名前で僕を呼んで』、『名もなき者』、そして『マーティー・シュープリーム』で3度アカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、いまやトップと言っていい人気ハリウッド俳優にまで成長したティモシー・シャラメ。
アイドルのような甘いルックスに似合わない、泥臭い役にも積極的に挑戦する姿は、若い頃のディカプリオに重なる。
この『マーティー・シュープリーム』も、ティモシー・シャラメの演技の幅を、多くの人々に見せつける作品となっている。

時は1950年代。
主人公はニューヨーク在住の卓球選手マーティ・リーズマン。
卓球アメリカ代表として、世界大会では敵なしの存在として君臨する世界ランク一位の卓球選手。
ただ、1950年代のアメリカでは、卓球はプロスポーツとしてはほとんど認知されてはおらず、夜ごと地下のパーラーで行われる“賭けピンポン”としてギャンブルの対象とされていた。
そのため卓球は遊びやギャンブルとして、当時のアメリカでは低く見られた存在であった。

そんな時代であれば尚のこと、卓球協会など存在せず、世界選手権のための海外遠征の渡航費などは自身で捻出しなければならなかった。
仮にも卓球のプロ選手を辞任するマーティーに職はない。周りから借金をしまくり、なんとか世界選手権に出場する。
主催者が用意した安宿ではきちんとした休息が取れないと、主催者達が泊まる高級ホテルのスイートルームに、勝手に主催者のツケで豪遊するのだが、それは優勝賞金をあてにしての行動であった。

優勝が大前提のマーティーでしたが、世界選手権に初参戦していた無名の日本人選手エンドウに、決勝で大敗を喫してしまう。
1950年代の日本では、外貨不足を防ぐため渡航は商用や公務、留学などに厳しく制限され、観光目的の一般海外渡航は原則禁止とされていた。そのため、卓球世界選手権に日本人が参加することはなく、このときはじめて世界は日本人の卓球選手の強さを知ることとなった。
完全なダークホースに優勝賞金を奪われ、マーティーには、借金と主催者名義でスイートルームに泊まったことで、主催者から多額の罰金を課せられてしまう。

そして、次の大会の会場は、アメリカ人を破って世界一の座に輝いたエンドウの活躍で、空前の卓球ブームに沸く日本。
多額の借金に加えて罰金の支払いもしなければならないマーティーは、日本への渡航費を稼ぐために、あの手この手で奔走することになるのだが、そこにワンナイトだけの不倫相手だったはずのレイチェルが、自分の子供を妊娠していることを知る。
果たしてマーティーは次々にのしかかる自業自得の問題を跳ね除け、世界大会が行われる日本に行くことができるのか。そして、宿敵エンドウを倒すことができるのか。
そして、レイチェルとお腹の子どものことも無責任に突き放してしまうのか・・・

女好きで自分勝手、口から生まれてきたように弁が立ち、巧みな論理のすり替えで相手を丸め込む詐欺師。
何より無責任。

『マーティー・シュープリーム』は、そんなマーティーの破天荒な半生を描いている・・・と、多くのメディアでは宣伝されているが、私には違って見える。
中でもマーティーを「嘘つき」と評しているが、少し違うように思う。
確かに、お金欲しさに大見得を切ったり、自分に親切にしてくれる人にはとことんつけ込もうとしたり、賭け卓球で仲間とイカサマをしたり、金持ちに取り入るためにその妻をたらし込もうとするなど、やっていることは犯罪者のそれだ。
でも私には、マーティーは嘘はついていないように見える。

あれだけの卓球の才能と、臨機応変に回転する頭と口とがあって、持てる力を総動員して卓球で有名になって、世間を、アメリカを見返そうと、最後のアメリカンドリームを夢見て奮闘する一人の若者の姿がそこにある。
もちろん、こうした映画が作られるほどに、のちにマーティーは有名人になるのでありますが(マーティー自身が成功したと思ったかどうかは分からない)、この映画ではそこまでは描かれない。
あのシーンで映画を終わらせた製作陣の思いと、あの時代のアメリカ特有の自由さと不自由さのさ中で、一人もがく若者の力強い「生」の有り様として、この映画を観てほしい。

(オススメ度:70)

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